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2009年3月 「シリンダーブロック設計」


C53を製作する上でぜひともやってみたかったこと、それは複雑な三気筒シリンダーを鋳造品で表現することである。シリンダーブロックの実物図面を見ると、すべての肉厚が20〜30mmになっており、外形は大きいが中はスカスカで、さらに蒸気通路が迷路のように入りくんでいる。模型でこの形状を表現するのに、鋳物の塊からすべてを加工するのは困難である。ドリルで蒸気通路を開けるのが関の山で、結果として重量はべらぼうなものになる。そこで、このような三気筒の模型は、筒、パイプ、平板などを組み合わせてシリンダーブロックとすることが多い。しかし実物のように中子を多用して鋳造すれば、複雑な迷路を持った鋳物を作れるはずである。

数か月を費やして三次元CADで設計をした。実物のシリンダーブロックは左右が分割されているが、模型では分割のメリットは少なく、一体構造とした。鋳物本体は、なるだけ現物の形状を再現した。木型の見切り面は、左右ではなく前後とした。材質は、このサイズだと鋳鉄という選択肢もあるが、サビが出るといやなので砲金(BC6)とする。



実物のシリンダーブロックの上部には、煙室を支えるフランジが形成されている。これを鋳物で形成してしまうと、旋盤テーブル上の振りの制限により、弁室の裾えぐりができなくなる。フランジは別部品として取り付けることにして、本体は弁室中心から、テーブル上の振りに等しい高さで水平に切り取った形状にする。こうしておけば、先に上平面を仕上げて、鋳物をテーブル上でひっくり返せば、自動的に弁室の芯高が合うことになる。



内部構造を透視図で示す。色分けされた部分が中子(ナカゴ)、すなわち鋳造後に空洞になる部分である。中子は、単に必要なポートの接続をするだけではなく、シリンダーブロック内部を可能な限り削り取る形状となっている。鋳造すれば、空間を厚さ約6mmの壁で細かく仕切ったような構造になる。



公式側カットモデル。弁室は、中央部が給気、前後端が排気で、その中間に気筒へのポートが形成される。鋳物の各気筒と弁室の前後貫通穴は、仕上げしろを取ってあり、ここをボーリングで仕上げるだけで内部加工が終わることになる。



中央気筒部分のカットモデル。接続経路は公式側弁室と同じだが、給気ポート、排気ポートがそれぞれ非公式側の弁室と共有されている。



鋳物を裏から見たところ。不要な部分は中子で大きく削り取られている。砲金で鋳造すれば、重量は13.5kgとなる。中子を使わずに塊のままとすると、重量は50kgを超えることになる。



中子だけを取り出したもの。中子は、3本の気筒とそれぞれの弁室、そして上の排気口用と、下の内部肉削ぎ用が必要で、合計8個となる。気筒と弁室はそれぞれ前後に円すい台の幅木を持ち、ここで中子を支える。それぞれの中子が面で突き合わさって、空間的に接続される。中子型は片面または割り型で、抜きやすくするために可能な限り抜き勾配を付ける。



弁室には図で示すような砲金製のライナーが入る。ライナーの角穴は気筒と接続されるポートで、この位置と長さでバルブタイミングが決まる。ライナーとシリンダーブロック本体とは、Oリングでシールされる。通常のOリングより細いものが必要で、JIS規格のJASOというのを使う。材質はバイトン。気筒のピストンのシールにもOリングを使う予定である。ピストンとピストンロッドはテーパーで填め合い接続される。実物はピストンロッドが前蓋を貫通しているが、日本型のみに見られる構造であり、模型では必要ない。



シリンダーブロックを組み上げた状態。グレズレー式弁装置を含む周辺部品は、いずれも形状が複雑で、これらも鋳物を多用する予定である。


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