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2010年2月 「気筒(1)」



蒸気室の次は気筒(シリンダー)である。まず前後の蓋を作る。いずれも砲金の鋳物を用意した。前蓋は旋削用のヤトイが一体となっている。後蓋は形状が複雑で、左右分割の鋳物としたが、短すぎて木型が不安定になる。そこで、外側前蓋に付ける尻棒詰箱とドッキングさせ、一体の鋳物にした。こうすると後蓋をヤトイとして尻棒詰箱を加工することができる。



まず前蓋の加工から。ヤトイ部分を三爪チャックして、シリンダーと嵌合する裏側を加工する。中央のくぼみは、ピストンを固定するナットを逃がすためのもの。



反転してヤトイを削り落とすが、外側前蓋については、尻棒詰箱を取り付けるための段差付きの突起を削り出す。中央からずれた位置にある突起は、安全弁を固定する台座で、ここも仕上げておく。内側前蓋には尻棒は付かないので、ヤトイ部分は安全弁台座の高さまで削り落とす。ちなみに、日本型の特徴であるピストンロッド貫通構造(尻棒)は、ライブでは調整がややこしくなるだけでメリットがなく、ダミーとして表現するに留める。安全弁は未設計なので穴開けは先送り。



続いて、尻棒詰箱を加工する。後蓋を三爪チャックして、取り付け面を旋削する。根元の空洞部分をテーパーで掘ると、左右の窓が自動的に開かれる。鋳物でくぼみを作っておいた部分である。



上下にも窓があるがこれは木型分割の関係で自動的には開かない。エンドミルで穴を開け、あとで丸ヤスリで仕上げる。



さらに細かい形状を削り出す。厳密に実物の寸法は出しておらず、何となく雰囲気を出しているだけ。加工が終わったら、詰箱部分を切り取る。




詰箱を気筒前蓋に固定するための穴開け治具を作った。写真で内側に見える小さいものがそれで、外側の大きいものは気筒の蓋をシリンダーに固定するための穴開け治具である。いずれも丸棒から旋削して作ったが、外側のものは80mmの円盤から作ったので非常に時間がかかった。



治具を使って、詰箱に固定穴を開け、詰箱から気筒前蓋に穴を移し開ける。詰箱の張り出し部分はドリルが入らないので、治具から移し開けた。




詰箱を前蓋にネジ止めして、今度は前蓋をヤトイとして前部を仕上げる。M3ネジの固定部がダメージを受けないように、浅い切り込みで慎重に加工した。



詰箱の前端に、真鍮丸棒から作ったフランジをネジ止めする。側面のフランジは鋳物で一体表現されていて、ここのネジ類はダミーである。ネジはいずれも、動輪舎の小径六角ボルト。この手のネジは最近、入手しにくくなっている。



尻棒ケースは、9mmの快削ステンレスを段差加工して作った。9mmというと特殊サイズだが、ピストンロッドをスケールどおりの太さに仕上げるために用意したものである。実物では、詰箱の窓から尻棒本体が顔をのぞかせているが、これは尻棒ケースを段差加工することで表現した。こちらは太さ5mm。尻棒ケースは、詰箱の底から入れたセットビス1本でで固定されており、完成後も簡単に着脱ができる。



最後に後蓋を加工する。四爪チャックで固定して、前蓋と同様の段差加工をやり、ピストンロッドの穴を貫通させる。完全に心を合わせるため、ドリル穴を中繰りで拡大して、リーマを通した。



スライドバー取り付け面を加工する。エンドミルの側面削りだと微妙なテーパーが付いてしまうので、正面削りで加工する。3個の後蓋の寸法を一致させるため、アングルプレートにピストンロッド材料の棒を立て、ここに後蓋を通して固定した。ローテーションで荒削りをしてから、エンドミルの高さ固定で、最後の0.2mmを削って仕上げた。



再び旋盤に移して、グランドを入れる段差を加工する。ここのシールにはOリングを使う予定で、つぶししろに応じた内径に加工する。



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