2002年9月 「バルブギア部品」


【設計】

バルブギアの具体的設計法は、参考書「ライブスチーム」に紹介されているので、そちらを参照のこと。
スライドバルブからピストンバルブに設計変更したことで、ラジアスロッド先端の位置が上がり、中立位置でピストン軸に対して平行にすることができなくなった。しかし実機でもBritanniaなど大きく傾いている例があり、許容した。これにより加減リンクの中立位置も傾くので、エキセントリックロッドも傾け、それに応じてバックセットを調整した。リフティングアームの回転軸(ウェイシャフト)がラジアスロッド延長上からずれたため、アーム上下のストローク角度が不均一になった。これに対しては、リバーシングアームの中立位置を前に傾けることで、逆転機の前後ストロークを揃えた。図の黒線が中立位置を示している。
バルブギア設計

【製作】

バルブギア各部品は、メインロッドのミニチュア版のようなもので、いずれも複雑な形状をしている。加工の工程は共通部分が多いので、工期短縮のためローテーションでまとめて加工することにした。手順は以下のようになる。


(1) 材料の切り出し
 バルブギア材料
バルブギア用に帯ノコで切り出した平鋼材料。これで材料代はたったの140円である。鋼材は驚くほど安く、切り売りでは商売にならないので定尺販売となる。今回使ったのは、台枠材などのために購入した平鋼4種類だが、定尺で合計数千円を要し、いずれもまだ5分の1くらいしか使っていない。「安すぎて高くつく」それが鋼材なのだ。
治具のたぐいを真鍮で作らずに、鋼材で作らざるを得ない理由がここにある。



(2) 軸穴開け
軸穴開け
切り出した材料と、後で使用するシルエット加工治具とを重ね合わせ、まとめて穴を開ける。旋盤のバーティカルスライダーに取り付けて、ステージ移動量で距離を出した。フライス盤を用いなかったのは、ドリルチャックの芯ブレ精度の問題である。



(3) 板厚加工
スロット加工
端部をフォーク状に仕上げる部品は、最初にメタルソーでスロット加工を行う。この時点では材料にボリュームがあるので、厚手のメタルソーで一気に仕上げることができる。


サイド加工
続いて、材料の厚さ方向の加工をする。余剰部分をバイスにチャックしてエンドミルで加工する。いきなり側面削りで仕上げようとすると、加工端部でビビリが生じるので、まず端部を正面削りで縦に掘っておき、中間部分を側面削りで仕上げる。


サイド加工後の部品
板厚加工が終わった部品。いずれもバイスでチャックするための余剰部分を大きく取っていることがわかる。


メタルソー切断
メタルソーで余剰部分を切り取る。ここでは刃の薄いものを用いて切削抵抗を抑えた。薄いメタルソーは軽く切れるが、調子に乗って早く送りすぎると、すぐに刃が欠けてしまうので注意。



(4) 形状加工
加工にはロータリーテーブルを用いるが、治具を共有することで能率を上げた。下の図は、治具に各部品の固定位置を書き込んだものである。基準となる穴(黒丸)から軸距だけ離れた位置に穴を開け、基準穴には先端にネジを切ったピンを接着し、その他の穴には必要に応じてピンをさし込み、この2本のピンで加工物を位置決めする。ピンはφ3で統一し、材料の穴がそれより大きい場合は、リン青銅でブッシュを作って合わせた。

シルエット加工治具

シルエット加工治具シルエット加工

治具の芯を出してロータリーテーブルに固定し、治具の側面を基準に角度ゼロを決めたら、あとは次々と部品を入れ替えて、計算どおりにステージ(X,Y,θ)を動かし、加工していくだけ。基準ピンのナット固定だけでは弱いので、別の場所を平鋼で上から押し付けて固定した。片方のヘッドを仕上げたら、部品の左右を入れ替えて、反対側のヘッドを加工する。


(5) 仕上げ
軸固定用ネジ穴開けなどの必要な加工を行い、最後に平面部をオイルストーンで、曲面部をドラムペーパーで磨いて切削跡を消した。


以下、バルブギアの個々の部品について説明する。

【リフティングアーム、リバーシングアーム】

リフティング&リバーシングエンドミルでスロット加工

完成写真の、左のふたつがリフティングアームで、右がリバーシングアーム。リフティングアームはスロットが深いので、ドリルで肉削ぎをして、エンドミルで仕上げた。


【ラジアスロッド】

ラジアスロッド

板厚加工は不要なので、材料ぎりぎりの帯板材から作った。ピンより前はテーパー、うしろは平行になっており、分けて加工する。後半の長穴はエンドミルで開けた。ピンは圧入。φ4丸棒から、圧入部をφ3プラス公差に、突出部をマイナス公差に仕上げ、裏から挿入し、円筒を介して万力で圧入した。締めしろは200分の1にした。


【コンビネーションレバー】

コンビネーションレバー 溝の斜めカット

1枚の平鋼から2本を取った。板厚加工の削りしろが多いので、まずラフカットエンドミルの正面削りで肉削ぎしてから側面削りで仕上げた。ここまでは良かったのだが、メタルソーで切り離した時点で、応力解放により大きく反ってしまった。背中合わせにして小型クランプで締め付けて矯正し、クランプごと焼きなますと、ストレートに戻った。
前進フルギアでクロスヘッドが後死点に来ると、コンビネーションレバーとラジアスロッドはかなりの鋭角で交わることになる。ここでの干渉を避けるため、トップのフォーク部分は、斜めに大きくカットする必要がある(写真右)。なお、黒い六角ネジは装飾用ダミーである。


【ユニオンリンク】

ユニオンリンク
最も小さい部品(全長3センチ)だが、形状は複雑である。これも1枚の平鋼から2本を取った。左右対称になるように注意して加工する。



【リターンクランク】

リターンクランク
ビッグエンドが矩形になっている以外は他と同じ。矩形部は、ロータリーテーブル固定でXY軸を動かして削った。加工が終わったら、クランクピンに締め付けるためのネジ穴を開け、メタルソーでスリットを入れる。穴は半分がストレートで半分がネジ穴となる。まず下穴径のドリルを貫通させ、半分の深さまでネジ外径+0.1mmに拡げ、残り半分にタップを立てた。心ズレ防止のため、フライス盤の軸を固定したまま、全ての加工を片側から行った。最終的にはクランクピンを貫通するテーパーピンを打ち込んで回り止めをする予定。



【バルブクロスヘッド】

バルブクロスヘッド先端R加工

これはリンクではないが、先端の接続部の加工法はリンク類に準じる。根もとのブッシュ部分は四爪チャックで旋削する。しかし、どちらか一方を加工すると、反対側の加工時のチャックに困る。そこで、先にブッシュ側の加工をやり、材料と同じ角棒に丸穴を開けてこれにブッシュ部分を差し込んでネジ止めし、この角棒を利用してロータリーテーブル上の治具に固定した(写真右)。

エキセントリックロッドは、バルブギアを組み立てたあとに現物合わせで軸距を決めるので、この時点ではまだ作らない。


(終)


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