2003年7月 「配管類(2)」
【加減弁】
Williamの加減弁はネジ式である。ネジ式はストロークが稼ぎにくいが、ネジピッチを粗くし、弁の先端を鈍角にすれば、ネジを半回転も開けないうちにスロットルを全開にすることができる。弁体はボイラー内部に設置される。ボイラー後端のフランジから真鍮パイプが延びて、この先端に加減弁の弁体が保持される。位置的には蒸気ドーム直下で、上に突き出た銅管が蒸気ドーム内の乾燥蒸気を吸い込み、前に延びる銅管によって煙室に導かれる。銅管は煙室管板のブッシュを通ってウェットヘッダー内に入る。真鍮管内外の圧力差を解消するため、弁体の根もと、もしくは真鍮管に小穴を開けておく。
弁のネジにはM10の並目を使った。弁の根元にφ5の穴を掘ってφ5のスピンドルを差し込み、ピンで接続する。弁とスピンドルは一体部品でも良いのだが、別部品にする方が楽に作製できる。弁先端の角度は120度にした。角度が大きいので、弁座を正確に加工しないと漏れを生じる。偏心が出ないように、全て中繰りバイトで仕上げた。
真鍮パイプの端面を切削しているところ。パイプが太くて旋盤主軸の穴を通らないので、「固定振れ止め」でサポートして削った。
加減弁のハンドルは、スペースの関係と操作性とを考えて、逆転機と同じようなスタイルにした。ベースとなるひょうたん形の板はロータリーテーブルで加工した。熱がかかる部分なので、両端のコックは接着ではなく圧入で固定した。
中央に角穴を開けるが、サイズがやや大きいので、ブローチではなく半円の自作バイトで1辺ずつ仕上げた。煙室戸ハンドルの角穴を開けるのに用いたバイトである。
銅管の先端は周囲をOリングシールするので、傷付き防止のためリン青銅で口金を作ってロウ付けした。実は、銅管のままで組み立てようとして引っかき傷を入れてしまい、口金を付けざるを得なくなったのであった。
加減弁単独で組み上げたところ。これをボイラーに組み付けるのだが、水面計のときと同じ問題が発生した。ボイラーの膨張によりブッシュが傾き、挿入した加減弁の先端が下がって、前方のブッシュ位置に突き出せないのだ。やむなく銅管を少し上に曲げて通した。
【逆止弁】
構造は軸動ポンプの逆止弁と同じ。加工法も軸動ポンプの時と同じである。弁座は別部品として弁体下部からねじ込む。ハンドルが付いているがこれはダミーである。軸はリン青銅製で、球弁の上昇制限用であり、回転はしない(シール材で固定)。ハンドルはここに入れて、軸先端を軽くカシメて固定し、自由に回転するようにした。
ボイラーに入る分岐管は、先端にユニオン接続の口金が形成されている。先に袋ナットを入れてから弁体に銀ロウ付けするが、銀ロウが袋ナットに回らないように、ダミープラグに袋ナットをねじ込んで保持する。
【排水弁】
ボイラーの底枠に設けられた弁で、運転後に缶水を抜くためのもの。底枠にたまった湯垢やゴミを完全に排出するため、左右二ヶ所に設けられている。ライブではニードル弁が使われることが多いが、マーチンエバンスの設計では球弁が使われている。根元にネジを切ったホルダーの中に球を入れ、これを弁座に押し付けてシールするようになっている。ホルダーの内径は、球弁がガタなく自由に回転できるサイズに仕上げる。球弁を用いる目的は、摩耗を均等化させて寿命を延ばすことにあるので、球が自由に回転できなければ意味がないのだ。
弁座の加工には自作の「Dバイト」を使った。逆止弁にも使えるようにバイト先端は鋭角にした。ドリルで下穴を開けてからこれで弁座を仕上げる。Dバイトは工具鋼から作るが、斜めにセットしたバイスに斜めにチャックして、先端の微妙な角度を出した。この後、焼き入れ、焼き戻しして油砥石で研いで完成。破損防止のため、先端部分には0.2mmくらいのRを付けておく。
排水弁のすぐ外をサイドロッドが上下するので、弁はなるだけ背を低くしなければならない。ハンドルは付けず、ネジ頭を六角にして、ボックスドライバーで回せるようにした。ボックスドライバーは、六角穴付きボルトを木の丸棒にねじ込み接着して作った(写真右下)。
【オイルミストトラップ】
大阪のK氏の助言に従い、シリンダー排気管にオイルミストトラップを設置した。真鍮でカップを作り、中央に縦に反射板をロウ付けし、底には銅管をねじ込む。これを、左右の排気が合流する位置に取り付ける。排気に含まれるオイルの霧は、中央の反射板に当たって下のカップに落ち、ブラストの圧力により下に押されて、銅管から排出されるようになっている。これを付けておくと、煙突からのオイル飛散を防ぐことができるらしい。
なおこの手法は、大阪の佐藤氏のアイデアであり、後日ご本人より、直接ご指導をいただいた。容量をもう少し大きくした方が良いとのこと。さらに、排気銅管が太すぎるとブラストが弱くなってしまうらしい(写真の銅管は内径2ミリ)。
(終)