2004年2月 「汽笛(2)」


【汽笛弁】

基本構造は一般的なもので、レバーで操作する。ただしストロークを多めにし、弁室の内径を三段階で変化させ、蒸気を低圧から高圧までスムーズに変化させられるようにした。スプリングの収納場所がなかったので、蒸気箱の前に筒をのばしてここをスプリング室とした。さらに弁と配管はオリジナル設計よりひとまわり大きく、球弁サイズは4mmφ、配管サイズは4mmφ(内径3mmφ)とした。これらすべて音程変化のためである。

スプリングサポート
スプリングで直接球弁を押さえる構造だと、ちゃんと着座しない場合がある。そこで写真のような部品を追加した。外径は弁室の内径と一致していて、弁室内をスライドする。根元の細い部分がスプリングの中に入り、先端は十字に切り取られていてここを蒸気が通る。材質はリン青銅製。


汽笛弁部品
真鍮丸棒から各パーツを作り、銀ロウ付けで組み立てる。弁本体は、すべてのロウ付けをすませてから弁座の加工を行った。奥に段差があるので弁座のリーマ仕上げができない。ドリルを注意深く送り、きれいな穴に仕上げる。球弁を押し出す棒はステンレス製で、これを受ける穴はリーマで仕上げた。レバーにはボタンを付けた。レバーだけでも良いのだが、少しでも熱を遮断したかったからである。夏場など汽笛弁はそうとう熱くなり、ヘタにさわるとアッチッチとなるのだ。


汽笛配管
汽笛弁から汽笛までの間で蒸気が冷えないように、汽笛の配管はなるだけ短くする。汽笛弁のすぐ下で左右に分かれ、火室の壁に沿って左右に下り、ランボードを貫通して汽笛と接続した。ランボードの穴は大きめにして、配管(スタッド)が接触しないようにした。汽笛とのクリアランスが厳しいのは第三動輪のクランクピンで、ここが当たらないことを確認する。



【蒸気テスト】

蒸気テスト カセットトーチで蒸気上げをし、安全弁が吹いたところで汽笛を鳴らしてみた。三音ともまともに鳴り、音量バランスも問題ない。しかし最大圧力だと、最低音が裏返ってピーと鳴る。ここはギャップ拡大が必要のようだ。それと、汽笛弁の押し込みに応じて音程は変化しているのだが、ボタンをわずかに押し込んだだけで音程変化が終わってしまう。つまり汽笛弁の蒸気調整がうまくない。やはり球弁で流量調整するのは難しいようである。
さて問題は調律だが、空気で鳴らしたときと和音がまったく違うではないか。さらに吹き出す蒸気の量によっても全然違う。これは難航しそうだ。両端のプラグをはずして、半円板を棒でつっつきながら調整するのだが、吹鳴直後は熱くて素手でさわれず、熱膨張のためかプラグも抜けない。毎度、冷えるまで待っていると、ボイラーの圧が下がってしまい、また数分かけて蒸気上げからとなる。さらに吹鳴の勢いで半円板が動いて音程が変わったりする。数時間を費やしてカセットボンベ1本を使い果たし、あまりに効率が悪いので作業を中止した。
ついでにもうひとつ難点があった。吹鳴中はボタンが高温になり熱くてさわれないのだ。断熱が不十分でしかもボタンの蓄熱量が大きく、ボタンの付加は逆効果だったようである。


【改造】

まず汽笛弁だが、球弁はやめてニードル弁にすることにした。汽笛弁全開だとやや蒸気が過剰だったので、全開でも開口断面積が絞られるようにテーパー角度を決めた(3度)。リン青銅の球弁押さえは廃止し、スプリングに入る軸部分と一体構造とした。

ニードル弁
ニードルはSUS303丸棒から削り出した。先端のテーパー部分はサンドペーパーで研磨して仕上げた。押し棒は、すき間からの蒸気漏れが多かったので、途中に溝を入れてグラファイトヤーンを詰めることにした。


調律をどうするか。半円板の位置を外から調整できるようにすれば楽だが、そのためには半円板に棒を付けて、後部プラグに棒が通る穴を開けなければならない。どうせそこまでやるなら、棒のかわりに長ネジを使って、完成後も調律できるようにしてはどうか。ハンダ付けによるシールはできなくなるが、各部品はすき間のないはめあいに仕上げており、テストでもシールなしでちゃんと鳴ったので問題ないだろう。後端から長いネジを入れ、先端を半円板にねじ込み、ねじを回すと半円板が前後に動くようにする。低音側の仕切板は後部のサポートがないので、M2長ねじの支柱で下から支持する。さらに折り返し側の手前の密閉された空間に水が溜まらないように、水抜きの穴を開ける。

三爪チャックでミリング
末端のプラグに偏心した段差穴を開ける。偏心が大きいので、旋盤の四爪チャックでは心出しに苦労する。そこで三爪チャックをフライス盤のステージに固定し、ここにチャックして加工した。段差はエンドミルで掘り、中心の穴はリーマで仕上げた。


調律機構
ネジはSUS303のセンタレス研磨丸棒から作った。4mmφの丸棒に6mmφのヘッドをロウ付けして旋削で仕上げ、先端の必要部分にダイスでネジを切った。ヘッドにはスリ割りを入れてマイナスドライバーで操作できるようにした。ネジが抜けないように根元をEリングで固定する。


樹脂製ボタン
ボタンの断熱のため、耐熱性樹脂を円盤状に旋削してネジ穴を開け、台座側にもネジを切ってセットビスで固定した。エポキシ接着剤も併用して永久固定とした。


再び蒸気上げをして調整。最大圧力での音の裏返りがなくなるまで調整した結果、低音の1音はギャップが0.5mm、高音の2音は0.3mmで落ち着いた。続いて調整ネジで調律を行った。汽笛の音色は奇数の倍音成分を多く含む音で、特に和音となると音がにごって聴音がしづらい。雑巾を開口部に押し付けて不要な音を消し、一音ずつ調律すると楽である。すべての調整が終わったところで、両端のプラグをハンダ付けで固定した。調律はこの後も可能である。

汽笛弁からの蒸気漏れがあるらしく、汽笛周辺にうっすら蒸気が漂っている。ニードルを入れてハンマーで軽くシーティングすると漏れは止まったのだが、最初の一声が悪くなってしまった。多少の漏れがある方が、汽笛の予熱ができて良いかもしれない。

参考までに音声ファイルを添付する。ライブの汽笛を聞いたことのない人は、実物とくらべてなんとショボい音と思うかもしれないが、まあ、こんなもんである。
音声ファイル(50kb)

ためしに1オクターブ下げてみるとこんな音。かなり本物の汽笛に近い!
音声ファイル(57kb)

(終)


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