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2012年2月 「煙室(3)」



クロスバーの左右の遊びを制限するため、両端に段差加工を追加した(詳細後述)。



煙室扉のヒンジ軸受は、鋼角棒から作った。底にネジ部分を形成して煙室を貫通させ、内部をナットで固定するようにしたが、そのうち1個は煙室内側から皿ネジで固定するように変更した。理由は後述。



ヒンジは鋼帯板で作った。ブッシュ部分は実物と同様に、軸に巻きつけて形成する。使用したのは6.4×1.6mmの平鋼でこれを4mmの軸に巻く。一端を焼きなまし、型板に固定してハンマーでまずU字まで曲げ、必要長さを糸ノコで切断し、丸棒を軸にしてρ字にまで曲げる。この後、全長を仕上げて、扉への取り付け穴を開けておく。




煙室扉を位置決めして矢尻とクロスバーで締め付け、焼きなましたヒンジを軸受に取り付ける。ヒンジ先端形状を手で曲げて調整し、煙室扉に沿うようにする。



調整後、ヒンジを扉にクランプして取付穴を移し開け、鉄リベットで固定する。2mmのリベットを使用した。なおヒンジ軸は丸棒とナットから作成したもので、ナットを締め付け後に外周を丸く削ってヘッドに似せている。上から刺しているだけで、下は固定していない。



クロスバーを保持するフックは、真鍮角棒から作った。妻板にネジを切って、内側からネジ止めする。クロスバーの左右の段差部分がここに収まる。これにより、クロスバーの左右位置に制限を設け、矢尻が長穴にスッポリ入るようにする。リング固定ネジの一部が邪魔でクロスバーが入りにくかったので、そこだけ皿ネジに変更した。同じ理由で、ヒンジ軸受についても前述のとおり改造。


煙突は、上から台座に差し込んで、下をペチコートで止める。セットビスで止めると固定が甘くなるので、煙突とペチコートにねじを切って、下からペチコートをねじ込むことにした。大径のねじなので、タップ・ダイスは使えない。これまで10年以上旋盤加工をしてきたが、旋盤でねじを切るのは初めてである。


正確なねじ切りバイトを作るのは大変なので、市販の付け刃バイトを手配した。左が外径用で右が内径用。刃先角度はいずれも60度である。


ねじの設計について簡単に説明する。ねじの断面は三角波になるが、メートルねじの山と谷のなす角度は60度と決まっている。ピッチが細かければ波も低くなる。山と谷の中間すなわち三角波の中心線を、軸まわりに1回転して形成される円筒面の直径を、「実効径」と呼ぶ。ピッチと実効径が決まれば、ネジのシルエットは一意に決まる。頂上と谷底はそのままだとエッジになるがこれは実際に加工できないので、平面で切り取った形状にする。JISでは、三角波の振幅(1/2×tan60度×ピッチ)をHとしたとき、外周をH/8、内周をH/4切り取ることになっている。この削り取ったあとの直径がそれぞれ、ねじの外径、谷径となる。以上より、ネジの外径とピッチを決めれば、ネジの谷径を計算で求めることができる。計算式は以下のようになる。
  谷径=外径−ピッチ×1.083
ちなみに、おねじとめねじの有効径が完全にイコールだと、ねじがかみ込んで動かなくなる。通常の軸のはめ合いと同様の「公差」が必要である。


煙突には外径40mm、肉厚3mmの真鍮管を使用した。固定触れ止めで両端を仕上げ、心押しして両端をそれぞれ39mmまで段差加工する。上には冠、下には煙突台座が入る。ネジの溝深さは0.75mmくらいが適当で、マイフォード旋盤で切れるネジピッチとして1.41mmを選んだ。ねじの外径39mmで計算すると、谷径は37.5mmとなる。ネジ範囲のすぐ左に、バイトの逃げ場として、谷径の溝を切っておく。



ねじは減速ギアを入れて回転数32rpmで切った。位相保持のため切削が終わるまでギアを解除してはいけない。復路はバイトを退避させて主軸逆回転で戻す。切削深さは、削り残し(鞍)の幅を見て決めた。切削抵抗を減らすため、刃先は主軸に垂直ではなく、山の斜面に沿って切り込んでいく。真鍮管は加工性が悪く、最初は0.1mmずつ切り込んでいたが途中で苦しくなり、0.05mmずつにした。切削後、外周のカエリをサンドペーパーで削り取って仕上げた。



ペチコートは丸穴を通しただけの砲金鋳物で、まず裾側から穴を拡大して入口のテーパー加工を実施し、反転させてレバー式ダイヤルゲージで心を出し、ねじ切り側の下穴加工をする。上端面の内周は、ねじ切りにそなえて30度のテーパー加工。さらに外周は煙室内壁のアールに合わせて13度のテーパー加工をした。



めねじ切りを実施。これくらい大径であれば、螺旋のねじれを考慮しても刃先側面が溝に当たることはない。ただしホルダーの底が穴の内側に当たっていたので、ヤスリで削り取った。切り方はおねじと同様である。切り込み量は、先に仕上げた煙突をねじ込みながら決めた。



煙突とペチコートは写真のように組み立てられる。煙室側板は曲面なので、ペチコートの左右2点のみが内壁に当たって固定されることになる。側板だけだと弱いが、反対側を台座が押さえているので、強く締めることができる。なお冠は、耐熱性ロックタイト(648)で煙突に差し込み接着した。



完成した煙室は、シリンダーブロックの固定ボルトを利用して、主台枠に取り付けられる。さて次はいよいよボイラー搭載だが、その前に今まで作ってきた部品をまとめて塗装してしまう予定である。



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