洋書コーナー
ここでは、他のサイトであまり話題になることのない、ライブスチームに関する洋書を紹介します。英語の本を読むのは大変ですが、その苦労に見合うだけのディープな世界がここにはあります。この手の書物の性格として、いつでも手に入るものではないことを、お断りしておきます。
Building the Rio Grande K-27 Volume 2
by Kozo Hiraoka
下で紹介した単行本の下巻が、約一年遅れで発売された。平岡幸三氏の書籍は、機関車本体の製作記事以外に、付録記事が充実しているのが特徴であり、特に本書は、内容の半分が各種の技術資料で占められている。まず運転付属機器として、機関車運搬棒、2種類の座椅子、電動ブロアー、ショベル、注油器、工具箱などが紹介されており、当然ながらすべて全自作が前提である。そして今回は、今までにない情報として、二液混合ウレタン塗料を用いた塗装手順の詳細が紹介されており、非常に参考になる。極めつけとして、機関車の粘着力、牽引力、制動力、シリンダー設計、ボイラー設計に至る理論式が詳細に示されており、ライブスチームの参考書として、世界的にも例を見ない内容となっている。K-27に全く興味がない者にとっても必読の書といえるだろう。
(2024.11.20)
Building the Rio Grande K-27 Volume 1
by Kozo Hiraoka
New Shayに引き続き、米ライブスチーム誌に連載された平岡幸三氏のK-27製作記事が、ついに単行本となって出版された。1冊ではまとまりきらず、今回まず上巻が発売された。プロトタイプのK-27は、一般的なワルシャート式ではあるが、非常に精緻に設計・製作されており、氏のライブ設計の集大成と言える内容になっている。特徴として、ナローゲージにも関わらず構造的には大型蒸機で、ピストンバルブ、棒台枠、イコライザーの設計が、国鉄大型蒸機に酷似している。軸配置がミカドタイプなので、最も似ているのはD51ということになる。これから国鉄型蒸機を設計しようとする者には大いに役立つ内容で、私も、C53の設計のために大いに参考にさせていただいた(特にボイラー)。ネットで書名で検索し、海外通販で入手できる。残念ながら日本語版の発売予定はないらしい。
(2023.7.20)
Building the New Shay
by Kozo Hiraoka
2004年に出版された「ライブスチームのシェイを作ろう」の英語版である。日本語版に遅れての出版となったが、もともとはアメリカの雑誌の連載記事なので、英語版の方がオリジナルである。日本語版と同様の素晴らしい内容で、こちらも本の後半でボイラー設計法などの応用技術解説がある。そして日本語版にはない7.5インチ化のための追加図面なども掲載されている。マーケットの大きい英語圏に向かって出版されたことで、これから著作の真価が発揮されることになる。全世界のライブスチーマーが、その内容に目を見張ることだろう。ちなみに私の手元には、著者直筆サイン入りの贈本があり、世界中の人に自慢できる、わが家の家宝となっている。
How (Not) to Paint a Locomotive
by Christopher Vine
英国で、つい最近出版された本書は、英国のモデル・エンジニア展示会でベスト・フィニッシュ賞を獲得した7.5インチ機の製作者の手による、大型模型の塗装ガイドブックである。とにかく驚異的な内容で、著者は塗装に命を掛けているとしか思えない。特に、ライニングの手法、そして塗装に用いる治具の詳しい紹介は、とても参考になる。さらに塗膜のあらゆる欠陥とその対処法など。塗装検査の例としては、塗膜を鏡に見立てて、碁盤目の書かれた紙を映し、碁盤の歪みで塗膜の荒れを評価するといった具合。同様のテストを最新のドイツ車に対して行って、著者は不合格の判定を下している。日本の某社は合格だそうである。塗装についてここまで書かれた本は、英国でも今までなかったようで、彼の地でも話題になっているらしい。掲載されている写真がすべてカラーというのも、著者のこだわりの現れだろう。amazon.co.uk
で入手可能。
The Model Steam Locomotive
by Martin Evans
今さら解説するまでもないが、著者は英国のライブスチーム設計者の最高峰であり、世界中の無数のマニアが、著者の設計した機関車を製作し運転している。日本の運転会でも必ず一台や二台は見られるほどである。本の内容は、渡辺精一著「ライブスチーム」のルーツともいえるもので、ライブスチームに関する技術の集大成となっている。この本に書かれている情報の多くは、故渡辺精一氏の著書で得ることができるが、ルーツを知るという意味で手もとに置いておくのも一興かと思う。ライブ界の、デファクト・スタンダードである。
So You Want to Build a Live Steam Locomotive
by Joseph F. Nelson
平岡氏の著書を除くと、アメリカにはあまり優れたライブ参考書がない。唯一挙げられるのがこの本である。内容は断片的で、ライブスチームのすべてを網羅するものではないが、特筆すべきは、英国流のモデル・エンジニアと全く違う手法が多数紹介されていること。実機への忠実度という点でも、英国設計のライブを凌駕しており、英国流ライブの手法をひととおり把握した者にとっては、非常に興味深い内容になっている。特に、国産大型蒸機を自作しようとする者にとっては、実機の構造が英国型よりアメリカ型に近いので、大いに参考になる。
Foundrywork for the Amateur
by Terry Aspin
ライブスチームを自作する上で障害となるのが鋳物の入手だが、手に入らないなら自分で作れないかと考える人もいるだろう。日本の住宅事情ではそれもなかなか実現しないが、英国ではそれを実践している人がいる。著者もそんな一人で、この本は、アマチュア向けに書かれた鋳造マニュアルである。簡単なアルミの鋳造に始まり、最終的には、キュポラ(溶銑炉)の自作方法まで紹介されている。日本で同様の本が出版される可能性ということでは、これほど可能性の低い本はないだろう。こういう文献が手に入るので、洋書あさりはやめられないのだ。惜しむらくは、ここで紹介された鋳造用具のほとんどが、日本のアマチュアレベルでは入手不可能なこと。将来ここまでやろうと考える人は、今のうちに倒産した鋳造所に出向いて、器具を買い集めておいた方が良いかもしれない。
Locomotive Valves and Valve Gears
by J.H.Yoder and G.B.Wharen
この本は、蒸気機関車全盛時代に、アメリカの鉄道整備士向けに刊行された、バルブギアに関する参考書の復刻版である。内容はかなり懇切丁寧で、機械工学の心得のない者でも、順番に読んでいけば理解できるように書かれている。時代が古いので、すべての形式が含まれているわけではないが、最も一般的なスチブンソン式とワルシャート式に関しては、これでもかというくらい詳細に解説されている。和書では「ライブスチーム」にバルブギアの設計方法が紹介されているが、あれは単純な比率計算による設計法であり、構造上の誤差を無視している。しかし本書ではすべてを作図で求め、構造から来る誤差を明確にし、誤差を最小にする設計方法を示している。まあ、ライブスチームでそこまでやる必要はないだろうが。
Evening Star
by Martin Evans
特定形式の製作法を解説した本の最大のメリットは、その形式の「設計」が手に入るということである。自分でライブスチームを設計しようとする者にとっては、10冊の参考書よりも、ひとつの設計図の方がはるかに参考になる。英国ではライブスチームの設計図が数多く売られているが、いずれも実物大の大判で非常に高価である。設計にそれだけの価値があるからなのだが、それが特定形式の解説本となると、設計者の解説付きで、設計図よりずっと安い値段で手に入るのだ。では洋書の中でどれかひとつと言われると、私はこの本を挙げたい。何より、著者(設計者)があのマーチン・エバンスであり、プロトタイプがOSのキットでも有名な、あの英国国鉄最後の一輌である。そして、スライドバルブとピストンバルブの両方の設計が示されている。ゲージは3インチ半だが、このまま5インチにスケールアップしても問題のない内容で、スケールモデルの設計を志す者にとっては価値が高い。おまけにこの設計は、一世代前のライブ立役者であった"LBSC"の仕掛り設計をルーツにしているという、いわく付きである。
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