2000年2月 「ボイラー完成」


【外火室後板のロウ付け】

残る大物である外火室後板を付けるが、同時にうしろの底枠も付ける。
真鍮皿ビスで外火室後板をボイラーにしっかり固定し、底枠を入れて銅リベットで固定する。
さらに、貫通したバックステイに真鍮ナットをねじ込む。
ここで、煙室管板と外火室後板とをつなぐロングステイとホローステイも付ける。
これらはオリジナル設計ではネジ固定だが、銀ロウ付け固定に設計変更した。
あらかじめ銀ロウ付けで組み立てたものを外火室後板側から差し込んで、
煙室管板まで貫通させ、後板側をナットで固定する。

セットアップ1セットアップ2

ここのロウ付けは、銀ロウを2方向から流さないといけないので大変である。
煙管に石綿を詰め、煙室を下にして置き、接合部に銀ロウを置いて耐火レンガで囲う(写真左)。
まずボイラー全体を加熱し、フラックスが透明になったら炎を外火室後板に集中させる。
銀ロウが全て流れたら、火を止め、プライヤーでボイラーを倒し、左右をレンガで保温し、
作っておいた銀ロウの枠を底枠上に載せ、再加熱する(写真右)。
銀ロウが全て溶けて、継ぎ目にしみ込んだら、終了。
おりからの寒波で、雪のちらつく中でのロウ付けとなった。


【煙管先端のロウ付け】

最後に煙管、ロングステイ、ホローステイの先端を煙室管板にロウ付けして終了となる。
ドリフトと呼ばれるドリルを抜く工具(写真)を煙管に入れ、
木づちで軽く叩いて煙管先端を拡げ、隙間をなくしておく。
火室側と同様にφ1の銀ロウを二重巻きにする。
ステイ先端はこちらもナットで固定し、銀ロウの輪を乗せる。
煙管先端より石綿を詰め、後ろを下にして置き、まわりをレンガで囲い、
缶胴前半を予熱してから炎を管板に集中させ、銀ロウをまとめて溶かす。
全てのロウ付けが終わったら、30分くらい酸洗浄し、内部の酸化膜を洗い落とす。

ドリフトヒートアップ



いよいよ耐圧テストである。模型といえど、これに合格しなければ使うことは許されない。
WILLIAMの常用圧6kgf/cm2の2倍の12kgf/cm2で30分保持し、漏れがないことを確認する。

【耐圧テスト準備】

テスト器具耐圧テストをやるためには、ブッシュ類をふさぐものが必要である。
小径のブッシュ用には、真鍮六角棒から作ったボルト状のプラグを使った。
大径のドームブッシュ用にはドームそのものを作った。
(ただし、空気溜りを防ぐため、ひっくり返して装着する)
レギュレータブッシュ用には、
レギュレータグランドを途中まで加工したものを使用した。
いずれもREEVES製砲金鋳物の機械加工である。
ブッシュ類のシールには、官製ハガキを用いたが、
大型ブッシュはハガキで漏れを防げず、バスコークを塗ってシールした。
逆止弁スタッドは、真鍮から削ったメクラ口金を袋ナットで締め付けてシールした。

耐圧テストは、空気ではなく水を使って行う(実物も同じ)。
水を送るためのハンドポンプと圧力計が必要である。
ハンドポンプは、アスターC56のテンダーに付いているものを使った。
圧力計は、JIS規格のφ70「蒸気用」2.5MPa(メガパスカル)のものを使った。
SI単位への移行により、現在はMPa表記のものしか買えない。
(1MPa=10.1972kgf/cm2)
これらの機器は焼き鈍した銅管に接続部をロウ付けしたもので接続する。


【テスト&修復】

漏れテスト1ヶ月におよぶ格闘の末、漏れを止めた。以下、その記録である。

◆第一回テスト
ボイラーを浴室に持ち込み、水を満たしてシールし、ハンドポンプで送水。
0.1MPaにならないうちに火室下部に水たまりができる。
ボイラー角度を変え、水を拭き取っては送水をくり返し、漏れ位置を探す。
ここで見つかったのは、底枠右横、底枠後ろ、外火室後板頂部、
煙室管板の長手ステイ固定ナット部の4カ所。
ああ一発合格ならずかと、この時はまだ楽観的に考えていた。

◆第一回修復
漏れ位置がばらばらなので、結局3回に分けて修復。
まず底枠の漏れ位置に銀ロウを流し、洗浄してから外火室後板を修復し、
再び洗浄して煙室管板を修復。
結局、組み立て時の最後の3回の銀ロウ付けをそのままやり直す形となった。

◆第二回テスト
再び浴室でテスト。今度は煙室管板の大煙管のまわりの1カ所から大漏れ。
全く圧を上げられない。どうやら第一回修復時の加熱でピンホールができたらしい。
早々にテスト中断。

◆第二回修復
漏れ位置の銀ロウを削り取り、再び銀ロウ付け。セッティングは前回修復時と同じ。

◆第三回テスト
煙管の漏れは止まったが、今度は火室内の漏れを発見。
よく見えないが、内火室後板のいちばん奥という最悪の位置から漏れている。
ついに来たかという感じである。
それにしても漏れ量に比較して圧力指示の降下が早すぎる。
疑問に思って、ハンドポンプから圧力計に直結してみると、やはりハンドポンプが逆流していた。
これではまともな耐圧テストはできない。

◆逆止弁作製
ハンドポンプとボイラーの間に入れる簡易逆止弁を作製。
参考書に従って作ったが、漏れのないものが出来ない。
加工法を変えつつ3回作り直して、何とか1MPaまで耐えるものができた。

内火室漏れ修理◆第三回修復
底枠を過熱しないように、水で湿した石綿ヤーンを底枠に巻き、乾かして固めた。
ボイラー全体を加熱し、火室入口に塗っておいたフラックスが
透明になったタイミングで、すばやく小型の火口に付け替えて、
火室内部に突っ込んで患部を加熱し、
銀ロウが流れたところで、すぐに火を止めた(写真)。

◆第四回テスト
今度は煙室管板の上の方から水が垂れてくる。
(火室を加熱したのになぜ煙室から?)
火室内からも、修復した場所の近くから漏れている。
暗いし狭いしで見極められない。
逆止弁がまた逆流し始め、テストにならず中断。
たび重なるモグラ叩きで疲れ果てた。

◆第五回テスト
コンプレッサーで2kgf/cm2の圧を掛け、漏れ位置に石鹸水を塗ってテスト。
煙室管板側の漏れ位置は、管板頂部の銀ロウ付け位置であることが確認できた。
しかし火室内の漏れは出ない。
エアでこれ以上圧を上げるのは恐いので、中断。

◆第四回修復
とりあえず漏れの確認できた煙室管板頂部を修復。
煙管周囲のロウ付け部分保護のため、煙管から出した石綿を拡げ、
管板周囲の正常部にも石綿ひもを詰め、ステイのナット上はワッシャを置いて断熱。

Oリング逆止弁◆逆止弁作り直し
同好会の木村氏からのアドバイスで、Oリング弁座の逆止弁を作製。
弁座に座繰りを入れ、バスコークでOリングを貼り付ける。
逆止弁単体でテストすると、さすがに漏れはピタリと止まった。

◆第六回テスト
浴室は暗いので、台所に場所を変えてテスト開始。
煙室管板の漏れは止まってくれた。
圧を1.2MPaまで上げ、やっと火室内の漏れが確認できた。
火室のいちばん奥のコーナーのステイ周囲から水が出ている。
(これまた最悪の位置)
さらに水面計上ブッシュの裏面プラグと、焚口の入口からも水がしみ出す。
今まで低圧で見つからなかったのか、後になって漏れだしたかはわからない。
銀ロウ付け修復はあきらめ、高温ハンダを注文した。

◆第五回修復(共同作業)
同好会の木村氏と廣瀬氏が、一本松で銀ロウ付けをやるという話を聞き、
ボイラー持参で参加することにした。
今回は木村氏製作中のグラスホッパー(5インチ)の縦型ボイラーのロウ付けが主目的らしい。
両氏のロウ付け法はたいへんラフなやり方である。
営業用の大型ガスボンベにアスファルト用の大型バーナーをつないだものを2セット用意する。
保温も断熱もなく、洗浄もほとんどやらず、熱いボイラーにフラックスをジュッと塗りながら、
バーナー2本で次々とロウ付けを進め、何と数時間で全てのロウ付けを終えてしまった。
漏れが出るのは覚悟の上らしいが、漏れ修理を入れてもこの方がずっと早く仕上がるだろう。
急速なガス消費で、ガスボンベの下の方には霜が降りていた。

一本松1一本松2

高温ハンダの話をすると、それは最終手段と言われ、銀ロウ付け修理を試みることにした。
その場で酸洗浄し、火室内にフラックスをたっぷり塗って、銀ロウを置き、
大型バーナーでボイラー後半をあぶってもらいながら、
自分は小型バーナーを火室につっこみ、銀ロウを溶かす。
ところが銀ロウが溶ける前に火室の奥が真っ赤になり、あわてて作業を中断。
そのまま角度を変えて、焚口と水面計ブッシュの漏れ位置に差し付けでロウを流した。
洗浄して検査したが、やはり火室の銀ロウは溶けていない。
再びフラックスを塗って、追加で銀ロウを置き、加熱開始。
またしても火室奥が赤熱し、やがてマグマのように流動し始めた。
げげっと思ったが、どうやらマグマ化しているのはフラックスらしい。
塗りすぎるとこうなるのか。フラックスの種類にもよるのだろう。
今度は銀ロウが流れるのを待ってから、火を止めた。
酸洗浄したが、溶けて固まったフラックスがこびりついて取れない。
ワイヤブラシで落とすと、銅の清浄面が現れ、ひと安心。

◆第七回テスト
一本松でかなりラフな修復をしたので、大モグラの出現を心配していたが、
結局火室内の漏れは完全に止まり、新たな漏れは焚口輪の継ぎ目一点のわずかな浸み出しのみ。
1.2MPaでも他の漏れは見つからず、ようやくゴールが見えてきたという感じである。
試しにポンチで叩いてコーキングしてみたが、漏れは止まらず、
ここも銀ロウ付けで修復することにした。

◆第六回修復
モグラ防止のため、外火室後板の漏れ位置以外のロウ付け部分を断熱した。
適当な断熱材がなかったので、プラスターで固めたが、乾くとポロポロ落ちる。
焚口には裏から銅板を当て、火室内が加熱されないようにした。
そのためか銀ロウが溶けるまでやや時間が掛かった。

◆第八回テスト
ここまで来ると、修復よりもテストの方が苦痛になってくる。
ハンドポンプで1.2MPaまで昇圧したが、圧力低下は見られない。
そのまま放置したが、5分で0.01MPaくらいの低下がある。
ブッシュの一部から水玉が出ており、増し締めして止める。
10分経過したあたりで、ロングステイの後端部で水玉が発生。
よく見ると銀ロウ表面に微少なピンホールができている。
ポンチを当てて、ハンマーでコツコツ叩いて穴をつぶすと、漏れは止まった。
さらに5分経過すると今度はサイドステイの1本から水がしみ出してきた。
ここもポンチでコーキングして止める。
(これでサイドステイの突き出しは削り落とせなくなった)
そこからさらに30分放置し、最後にボイラーをひっくり返し、
デンタルミラーで火室内を検査し、水玉の発生がないことを確認する。
煙管の中にも光を入れて確認する。
とりあえずは合格か。写真撮影して終了。

ボイラーには、台枠完成後に膨張受け(台枠に載せるためのアングル)を付ける必要がある。
これを銀ロウ付けするか、ハンダ付けするか、バスコークでシールするかは未定だが、
いずれにしろボイラーを載せる前にまた耐圧テストをする必要がある。
それまでボイラーは、安全な場所に保管しておく。

完成1完成2完成3


汗と涙の痕跡をしっかり残し、ボイラーが完成した。

(終)


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