2001年2月 「動輪(1)」
ついに念願の?動輪加工にたどり着いた。ここまで後まわしになったのは、鋳物がなかなか手に入らなかったからである。REEVES倒産前にどうにか全部そろったが、予備はもう手に入らないので、加工の失敗は許されない。
【前処理と塗装】
今回は加工前に塗装を行うことにした。塗装前にヤスリとワイヤブラシでクリーニングし、洗剤とシンナーで脱脂処理をした。塗料は先月紹介したオキツモだが、スプレー缶だとスポークのすき間になかなか塗料がまわらず、厚塗りになるのは仕方のないところ。参考書によると、車輪が収まる大きさの皿に塗料を満たし、漬けこんで引き上げる方法が紹介されている。塗装が乾いたところで、加工を開始する。
【旋盤加工】
手順はポニー車輪と同様だが、前回の反省点としてまず四爪チャックでリム内周と同心円にチャックして、表面と外周をクリーニングする(写真左)。これで外径の芯が出るので、以後の加工は三爪チャックを使う。まず裏面を仕上げ、軸穴をリーマ仕上げで開ける。
動輪にはバランスウェイトがあるが、これを三爪チャックで削ると、反対側のボスも削れてしまう。バランスウェイト部分だけを手で往復させて削る方法もあるが、面倒なので、面板に動輪2枚を固定して、リムごと削った(写真中)。リムはわずかに段差を付けてあとで仕上げ直す。バランスウェイトは磨き出しにする予定だったが、形がどうも気に入らないので、めだたないように、切削後に黒く塗装した。
以後の作業はポニー車輪と同様、ヤトイを作って行った(写真右)。タイヤコンタの形状と仕上げの手順はポニー車輪と同じである。リムとバランスウェイトの境界には、先端を60度に整形したバイトで溝を入れる。
【鋳物欠陥】
今回の動輪鋳物は欠陥のオンパレードだった。まず、追加で送られてきた2枚のバリがひどい(写真左)。この鋳物は合わせ木型で作られており、バリは鋳物中央に出ているので、機械加工では取り除けない。加工前にヤスリで削り落とす必要がある。硬いのでダイヤモンドヤスリを使った。さらにこの2枚は、表面が灰色の粉末(鋳物砂?)でびっしり覆われていた。これは鋳物欠陥というより後処理の手抜きだが、これもワイヤブラシで気長にクリーニングした。さて実際に切削を始めると、微少なチルが多いことがわかった。刃先が滑って加工面にテカリが出るのですぐわかる。特に裏面の黒皮のすぐ下がひどく、ほとんど全面テカテカになった。代わりの鋳物もないので、切削速度を落として超硬バイトで削っていったが、ある程度削ると消えてくれた。参考書によると、このサイズの動輪であれば250rpmで削れるとあったが、とても無理で、減速ギアを入れて気長に削るしかなかった。最後になって今度は仕上げ面に巣が現れた(写真右)。幸いにして裏面のめだたない部分だったので、無視することにした。
【クランクピン穴開け】
軸穴からクランクピンの穴までの距離は、全ての動輪で正確にそろえる必要がある。参考書では治具を用いてボール盤で開ける方法が紹介されているが、リーマを通すときのことも考えて、旋盤で開けることにした。動輪の切削に用いたヤトイにクランクピン位置をケガいてポンチを打ち、四爪チャックで芯を出して、まずヤトイにクランク穴よりやや大きい穴を貫通させる。ここに次々と動輪を取りつけて、ドリルで下穴を開け、中繰りで偏心を取ってリーマで仕上げる。ヤトイをチャックから外さない限り、全ての動輪のクランク穴位置が正確にそろう理屈である。しかしヤトイが重たくて旋削時の重量バランスが取れない。以前より、四爪チャック使用時の重量バランス取りには苦労していたので、これを機会に思い切って四爪チャック側面にM6のネジ穴を開け、ウェイトを取りつけられるようにした。
【研磨】
研磨を前提にしてポニー車輪を未塗装で仕上げたので、まずポニー車輪の塗装と磨き出しを行う。適当にマスキングをして表裏から塗装をし、ポニー用のヤトイを再び使って旋盤で回しながら研磨する。まずサンドペーパーを貼ったベニヤ板を心押し台でボスに押し付けて磨くと、塗装は簡単に剥げて、ボスはピカピカになった。リムは段差があるのでこの方法は使えず、ペーパーを手で押し付けて磨こうとしたが、切削マークの間にしみ込んだ塗料がなかなか取れない。ペーパーを何度も交換し、指先が真っ黒になっても取れない。そこでシンナーをつけた綿棒で拭いてみると、あっさり取れた。それならばと他の部分もシンナーで拭き取ったが、この方がずっと効率が良い。厚塗り部分はキサゲで塗料をおおよそ落としてから拭く。結局、塗装剥がしは全てシンナーでやり、研磨の必要はなくなった。
英国の参考書は口をそろえて車輪の研磨はやるなと言っている。実物がやってないのだからというのがその理由で、そこまで言うなら従ってやるかと勝手に納得して研磨はやめることにした。すでにピカピカになったポニー車輪のボスは、表面をごく薄く削り取ってまた機械加工面を出した。動輪も研磨せずに終了とする。研磨しないとさびやすいという話もあるので、充分に油引きをしておく。
次は車軸とクランク軸の製作であるが、いずれも段差加工をする。旋盤で段差加工をすると、段差の根もとにバイト刃先のRが残るが、このRは0.2〜0.5mmと結構大きいので、これを入れる穴は、入り口を大きく面取りしておかないといけない。動輪だと、車軸穴の裏側、およびクランク軸穴の表側がこれに相当し、穴開けの直後に皿もみカッターで面取り、またはバイトで段差加工する。穴は加工せずに、軸の根もとのRを削り取るという方法もあるが、強度的にはRを残すほうが良い。いずれにしろ設計の段階でここまで考えておかないと、後から追加工ができずに困ることもある。
(終)