2001年12月 「メインロッド」
順番からいくと次はクロスヘッドだが、またまた材料の手配の都合で、先にメインロッド(connecting
rods)を作った。サイドロッドほどの軸距精度は不要で、ナックルジョイントもないので、サイドロッドよりは簡単である。ただしビッグエンド(動輪側)からスモールエンド(クロスヘッド側)にかけてテーパーがついているのがちょっと厄介である。フルートもまたテーパーになっている。
WILLIAMのメインロッドの軸距は、第一サイドロッドの軸距と同じなので、サイドロッド用の加工治具がそのまま使える。オリジナルの設計ではビッグエンドは丸形だが、好みにより角形に設計変更した。
【テーパー加工方法】
治具を傾けるのもひとつの手であるが、角度を正確に合わせるのが難しいので、治具のビッグエンド側のピン遊びを利用して傾ける方法をとった。
誇張図を見れば一目瞭然と思うが、治具はステージと平行にセットし、ここにロッドを入れて、ピンと穴の遊びの範囲でロッドを片側に押し付けてナットを締めれば、ピンと穴の直径差の半分だけロッドが傾くことになる。ロッドを上下ひっくり返して両面を加工すれば、シルエットはテーパーに仕上がる。これを利用して切り出し、上下面仕上げ、そしてフルート加工まで行う。ただしフルートのテーパーは外形のテーパーより小さくするので、ピンと穴の間に薄いブッシュを入れて遊びの量を加減する。
以上、具体的には治具のピンの直径を8mm、スモールエンドの内径を8mm、ビッグエンドの内径を11mm、フルート加工時のブッシュの厚さを0.5mmとし、これを用いて、ロッドのストレート部分の上下幅を、スモールエンド側8mm、ビッグエンド側11mmに仕上げ、フルートの幅を、スモールエンド側4mm、ビッグエンド側6mmに仕上げた。側面加工時はロッドを傾ける必要はないので、遊びを埋めるブッシュを入れて、ロッドが治具と平行になるようにした。
【加工手順】
サイドロッドのときは両端の首部分でエンドミルがビビって困ったので、今回は首のRを形成する下穴を事前に開けておくことにした。材料の両端に軸受け穴を開ける時に、同時にここの穴も開けてしまう。
ドリル連続穴による切り出しはサイドロッドと同じ。ただしピンの遊びを利用してロッドを傾け、列が斜めになるようにした。
ビッグエンドをエンドミルで仕上げる。後端部はアールをつけるので、ロータリーテーブルの上に治具をセットして加工した。スモールエンドはサイドロッドと同様に仕上げる。
側面加工。両端の段差部分をロッドと垂直にするため、ロッドは傾けずに加工する。この後、メタルソーで余剰部分を切断するが、その際にはまたロッドを傾ける。
エンドミルによる上下の仕上げ。ここもロッドを傾ける。ビビリ防止のため前からロッドを押さえつけてサポートするのは前回と同じ。ビッグエンドの首部分にわずかに切り込んで継ぎ目をめだたなくするのも前回と同じである。スモールエンドはクロスヘッドに完全に隠れてしまうので、ビッグエンド側の継ぎ目を優先させて仕上げた。
スモールエンドの肉厚を、中間部と同じになるまで削ぎ落とす。段差を完全に消すために、ダイヤルゲージで段差0.01mm以内に追い込み、オイルストーンで仕上げた。
ウッドラフカッターでフルートを切る。前述のように0.5mmブッシュを入れ、傾きの量を少なくした。まずロッドを片方に傾けて切り込み、続けて刃先位置を変えずにロッドを反対方向に傾けて切る。つまりロッドに対してカッターをV字に動かすことで、テーパーを削り出すのである。
【フルート加工時の注意点】
これはサイドロッドも同様なのだが、側面加工をした後にフルート加工をする場合、切り込み距離に注意が必要である。図で黒い線が側面加工の断面、黄色い線がフルートの断面とする。上から見ると側面加工の端部とフルートの端部しか見えないので、上の図の青で示した距離が見かけの不足分になる。しかしこの不足分だけ刃先を進めてしまうと、赤で示したようにオーバーシュートしてしまう。実際の不足分は下の図に示したようにそれよりずっと小さいのである。この差はフルート端部が側面加工端部に近づくほど拡大する。設計により異なるが、今回のメインロッドについてCADで作図してみると、見かけ上0.6mmの不足で実際は0.01mmの不足という状態であった。先にフルートを削ってから側面加工すればこの問題は起こらないが、フルートを先に切ると、フルートのセンターがずれた状態に仕上がる可能性があるので、悩ましいところである。
【材料の反り】
今回使用した材料はサイドロッドと同じSS磨き鋼だが、手配先が違っていた。そしてサイドロッド材がほとんど反らなかったのに対し、今回は、これでもかというほど反ってくれた。片側の側面を切り取ったものを定盤の上に置くと、反対側の平面部中央が1mm近くも持ち上がっている。もう片側を切り取ると反りが消える。これの繰り返しである。メタルソーで切断する時など、切り進むに従って反りがどんどん戻っていき、メタルソーを横にねじ曲げて、あやうく割ってしまうところだった。今回はフルートは表側だけにしておくつもりだったが、フルートのアンバランスだけで反ってしまい、結局両側に切らざるを得なかった。全ての加工を終えると、反りはほとんど消えてくれたが、軸距だけは加工前から0.1mm近く伸びてしまった。サイドロッドにこの材料を使わなくて本当によかった・・・
冷間引き抜き鋼材は、圧縮による内部応力を蓄えている。イメージ的には押し縮めたスポンジを袋に詰め込んだようなもので、袋の一端を切り取るとそちら側に反り、全部切り取ると全体が膨張する。これを防止するには、加工前に焼鈍処理をすれば良いのだが、加熱はともかく保温、徐冷が難しい。
【仕上げ】
サイドロッドと同様に、オイルストーン、軸に巻いたサンドペーパー、整形ヤスリで仕上げ磨きをし、ディテール表現として、ビッグエンドに油壺とコッターピンを付けた。市販のナットをそのまま用いる部分は、ヤスリでメッキを剥がして鉄の地肌を出した。最後に、リン青銅丸棒からブッシュを作って圧入すれば完成である。今回は圧入の締めしろを0.03mmと大きめに取り、圧入後に再びリーマを通した。
(終)