2002年8月 「加減リンク」
加減リンクはおそらくバルブギアの中で最も製作が難しい部品だろう。溝の中で滑り子が動く構造だが、直線運動ではなく曲線運動であり、溝も滑り子も曲線に仕上げなければならない。オーソドックスな加工法は、旋盤面板上の工作物に突っ切りバイトを正面から当て、面板を手で回してガリガリと削っていくというものだが、時間がかかるうえ、溝の両端がオープンになるので、別の部品で両端を塞ぐ必要がある。しかしフライス盤とロータリーテーブルがあれば、エンドミルで溝部分だけを効率よく加工することができる。
WILLIAMの加減リンクは1番ゲージなどで使われる簡易型である。トラニオン・ピン(耳軸)は外側にしかなく、ラジアスロッドで内側から押すことで抜け落ちを防止している。オリジナルの設計だと、滑り子の摺動する円弧型長穴が形成された本体と、トラニオン・ピンを保持するフタとが接合された構造になっているが、さらに単純化して本体とフタを一体構造とし、内側から所定深さの円弧型の溝を掘るだけにした。
ロータリーテーブルで加工するための治具として、ボイラー型板の加工に用いた厚さ10mmの軟鋼プレートを再利用した。ロータリーテーブル上での回転中心を示す穴、加工物を固定する穴、そしてリーマ仕上げする位置のリーマを逃げるための貫通穴を開けた。これを用いて加減リンク本体と、滑り子とを作製する。
【滑り子】
1辺5ミリほどの立方体だが、溝とこすれる2面が曲面になっている。参考書にはヤスリ仕上げで充分と書かれていたが、機械加工の方が簡単である。リン青銅丸棒の一端を仕上げて輪切りにし、仕上げた面を真鍮板にハンダ付けし、この真鍮板を治具に固定してロータリーテーブルに取り付ける。そして残りの5面をエンドミルで仕上げ、中央にリーマ穴を開け、ハンダを溶かして取れば完成である。一度に2個まとめて作った。
【加減リンク本体】
まず軟鋼平板の両端に固定用の穴を開け、治具に取り付けて、切り離しのためのドリル連続穴を開ける。取り付け精度を確保するため、既成のボルトではなく、丸棒から作ったスタッドを用いて固定した。この後、糸のこで切り出してヤスリで中央部を半月型に荒仕上げする。
再び治具に取り付け、エンドミルを極座標で動かして外形を加工する。さらに装飾用として、ダミーボルトのネジ穴と側面の長穴(写真)を開けた。長穴があると内部への注油が楽になる。トラニオン・ピンを入れる穴と、エキセントリックロッドの接続穴もここで開けておく。いずれもセンタードリルで位置を決め、ドリルで穴を開け、リーマを手回しで通した。
ロータリーテーブルでは、X軸と回転軸を順次動かすことで、曲線から直線、または直線から曲線に移るシルエットを一度に削り出すことができる。さらにY軸に所定のオフセットを与えてやると、曲線に接続される直線の角度を任意に選ぶことができる。ここでは、加減リンクの背面側とそれに続く凸部分の斜面を一度に削るのに、Y軸のオフセットを使った。水色の丸がエンドミルの軌跡である。Y軸は固定のまま、回転軸とX軸を動かして、図のシルエットを削ることができる。
ここまで加工したら本体を裏返して固定し、溝を掘る。φ3のエンドミルで0.5mmずつ掘っていき、底に達したところで左右に幅を拡げていき、滑り子がスムーズにガタなく動くように仕上げる。滑り子のストロークを稼ぐため、溝の四隅のR部分は深く切り込んで削り取った。
最後に両端の固定穴部分を糸のこで切り落とし、エンドミルで仕上げる。エキセントリックロッドを接続する凸部分のRは、接続穴をロータリーテーブル中心にセットして仕上げる。治具は、クロスヘッド加工に用いたものを再利用した。
【熱処理】
走行中、滑り子は上下に微動するので、加減リンクの溝には偏摩耗が起こりやすい。オリジナル図面にもcase
hardenとあったので、浸炭焼き入れをすることにした。バーナーで焼いて赤熱させ、溝を下にして浸炭剤の山に押し付け、自然冷却させる。この動作を数回繰り返して浸炭をする。
ここでS45C丸棒からトラニオン・ピンを作って圧入する。簡単に直角を確保するため、フライス盤のドリルチャックを用いて圧入した(写真)。さらに補強のため銀ロウを流すが、ごく少量、かけら程度を流す。加熱して銀ロウがしみ込んだらそのまま赤熱させ、水につけて急冷する。すなわちここで焼き入れもしてしまうのだ。溝内部をヤスリでこすってツルツル滑ればOKである。トラニオン・ピンは焼き入れしたままだと折れやすいので、遠火でワラ色になるまで加熱して焼き戻した。
【仕上げ】
最後に、熱処理による酸化膜を除去するため、サンドペーパー、油砥石で研磨を行う。サイドの曲面の研磨には丸棒にサンドペーパーを巻いてやる方法が知られているが、すぐ破れ飛んでしまうので、既製品を用いた(G&Jのバンドドラム)。
加工が終了したら、ダミーネジをねじ込み、モーションプレートのブラケットに入れて、軽く動くことを確認する。
側面の長穴がちょっと長すぎたようだが、まあいいか。
(終)