2002年12月 「煙室(1)」


WILLIAMの工程は参考書に沿っているわけではなく、気が向いたところから作っている。下回りにはまだドレイン弁とブレーキテコが残っているが、大きな部品を作りたくなったので、煙室を作ることにした。

【煙室胴】

煙室中繰り
外径108mm、肉厚3mmの真鍮管から作った。内径が、ボイラーの外径よりほんのわずか小さく、ボイラーを挿入する部分を段差加工する必要がある。桜材で、真鍮管両端に押し込める固さの円盤を作り、センターに正確に穴を開けて軸を通し、根元は四爪チャック、先端は心押しする。まず端面を仕上げてから内部を段差加工するが、薄皮を削るようなものなので、低速で少しずつ慎重に削った。煙室戸の入る反対側は端面削りのままとした。


続いて、全ての穴開けをやる。頂部に煙突、底部に吐出管、左右側面に蒸気管、煙突の後ろにスニフチングバルブの、計5箇所である。Vブロックを使って円周を二分割する側線をけがき、ここを基準に穴位置をけがく。穴の反対側にもケガキ線を入れておく。旋盤を用いて、以下の手順で穴を開けた。

煙室穴開け
煙室を旋盤の横送り台の上に立て、スペーサーで高さを調整して上から長ネジ1本で締めつける。ラインを合わせるため、主軸と心押し台の両方にセンターを入れ、先端がそれぞれケガキ線に合うように煙室の位置を微調整する。煙突穴は径が大きいので、ホールソーで抜いてから中繰りバイトを四爪チャックして拡大した。蒸気管穴は煙室に対して斜めに開けるので、ドリルではなくエンドミルで下穴を開けて中繰りバイトで仕上げた。他は、ドリルで拡大してリーマで仕上げた。



【煙室戸】

煙室戸鋳物
扉と台座(リング)からなり、いずれも砲金鋳物が提供されている。台座は全面を切削して仕上げた。台座外径は煙室に押し込める固さに仕上げるが、わずかに段差加工にして押し込み深さを決められるようにした。一方の煙室戸は薄っぺらい部品であり加工には工夫を要する。以下の手順で加工した。


煙室戸曲面削り
まず鋳物先端のチャック軸を三爪チャックして、台座への接触面を仕上げ、軸を切断して三爪チャックで中央に穴を貫通させる。この穴を使って、写真のようなヤトイに固定し、前面を仕上げる。前面は曲面になっており、参考書によるとバイトのX軸とY軸を手で同時に動かしながら削れとある。試しにやってみたが、そんな職人芸は私には無理とすぐわかった。そこでトップスライダーの角度を変えながら多角形に削り出し、角をヤスリで削って曲面に仕上げた。



【ヒンジ】

ヒンジ整形ヒンジ完成

今回の工作中、最も厄介で時間を要した部分である。ヒンジの大部分は薄い帯板だが、軸を入れる部分だけ太いので、平鋼材を段差加工して使った。帯板部分は、厚すぎると見苦しいが、薄いと煙室戸を開きすぎたときに簡単に曲がってしまう。そこで先端が薄く根元が厚いテーパーにした。これらはエンドミルで削り出したが、小さいので別の角棒にハンダ付けしてここをチャックしながら加工した。そのまま軸穴を開け、軸受け部分はヤスリで仕上げた。写真左がここまでの状態。ハンダを溶かし、次にこれを煙室戸の曲面に沿わせて曲げなければならない。焼きなまして手で曲げようとしたが歯が立たず、太い鋼管に沿わせてクランプで押し付けて曲げた。これだけではまだ煙室戸の斜面には沿ってくれず、ひねりを入れないといけない。先端を万力でくわえ、根元をプライヤーでつかんでエイヤとひねる。最終的には煙室戸に固定する鉄リベットの力で強引に密着させたが、これが災いして薄い煙室戸が変形し、台座への接触面も歪んでしまった。部分的にヤスリで修正し、接触面はサンドペーパー上で擦って平面を出し直した。この時点ではまだ軸受け部分が斜面に沿ってハの字になっている。再度焼きなまし、プライヤーで曲げて修正し、軸が上下の軸受けを貫通するまで調整した。なおリベット打ちの際は、銅のブロックをアンビルとして使うと、リベットの頭をつぶさずに済む。

ヒンジ受け
台座側のヒンジ受けは真鍮ブロックから作った。裏から小ネジで固定して銀ロウ付けし、裏のネジ頭は後の加工の邪魔になるので旋盤で削り落とした。この時点ではまだ軸穴は開けない。



【煙室戸ハンドル】

煙室戸ハンドル部品
煙室戸を締め付ける構造は実物と同じである。矢尻を閂(かんぬき)の長穴に通して90度回して引っかけ、ネジで矢尻を手前に引いて締め付ける。ハンドルは2本あり、それぞれ矢尻を引くネジ穴、矢尻を回す角穴になっており、矢尻の根元もこれに対応してネジ部分と角棒部分が形成されている。ハンドルと矢尻は快削ステンレス、閂は軟鋼で作製した。ハンドルコックの加工法は逆転機のハンドルと同じ。写真ではわかりづらいが、コックが2本重なると締めにくいので、ネジ穴側のコックは少し傾けて付けた。


角穴開け
角穴を抜くためのブローチとガイドを作製した。先端を加工物下穴に入れてガイドにセットし、万力で締めつけていく。しかし厚さ3.6mmの快削ステンレスに使うには無理があった。刃先が半分くらい進んだところでテコでも動かなくなり、抜くこともできずブローチが折れ込んで、あえなく失敗。ブローチはあきらめて、インデクス加工で1辺ずつ仕上げることにした。先端が半丸になったバイトを作り、旋盤にチャックした加工物を90度ずつ回しながらバイトを往復させ、少しずつ削り取って角穴とした。


矢尻旋削
矢尻は、軸部分と先端を別に作って銀ロウ付けすることもできるが、一体もので作った(実は銀ロウ付けが嫌いだったりする)。まずφ8の快削ステンレスの一端にM3の雄ねじ部分と1辺3mmの角棒部分を形成し、反対側はエンドミルで厚さ4mmまで削る(幅は8mmのまま)。次に、ここを四爪チャックで保持して心を出し、反対側には真鍮丸棒をねじ込んで心押しし、中間部分をφ4に削る(写真)。最後にφ4部分を三爪チャックして矢尻先端をテーパー削りして、ヤスリで仕上げた。



【組み立て】

ここまでできたところで、ヒンジの軸穴を移し開ける。煙室戸を台座の所定位置に載せ、矢尻とハンドルで煙室戸を締めつけ、ヒンジの軸穴にドリルを通してヒンジ受けに皿もみだけ入れ、分解して台座単体で穴を貫通させる。軸はステンレス丸棒にステンレスのヘッドを付けたもので、ヒンジに上から刺すだけとした。扉を閉じて矢尻で締めつけたとき、接触面全面にすき間ができなければOKである。

閂受け
最後に閂受けを付ける。真鍮角棒から削り出したもので、固定用の穴を開けておく。台座に閂を矢尻で固定し、ここに閂受けを沿わせて位置決めし、接着剤で仮固定する。そのまま穴を台座に移し開け(貫通させない)、穴にタップを立ててネジで固定し、銀ロウ付けする。加熱してロウを差したとき、ネジが緩んで少し傾いてしまった(これだから銀ロウ付けは嫌いだったりする)。


機関車の「お面」のできあがり。矢尻を締めたとき、ハンドルが2本とも下を向くとみばえが良い。角穴ハンドルを矢尻に入れる方向を変えれば、ネジ穴ハンドルの方向も変わる。それでも気に入らないときはハンドルの軸受け裏面を削って調整すれば良い。

煙室戸完成開いた煙室戸


(終)


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