2004年1月 「汽笛(1)」
汽笛にはこだわりがあると「雑記帳」で書いた以上、こだわらなければならない。設計から製作までを二回に分けて報告したい (と、工作が間に合わなかったいいわけをする)。
5インチの大型機と違って、WILLIAMの小さなボイラーでは充分な蒸気量が得られないし、汽笛のサイズも制限されるが、できるかぎりのことはしてみたい。まず和音にすることは必須で、少なくとも三和音にしたい。そして実機と同様の音程変化をつけるようにしたい。以上の条件を満足させるためには、音量は犠牲にしても良い。
【一般論】
汽笛の音程は何で決まるか。歌口から筒の底までの距離に「開口端補正」を加えた量が、音の1/4波長に等しくなる。開口端補正は、笛の構造、蒸気の圧力等により変わる。圧力が高ければ高いほど開口端補正は小さくなるので、波長が短くなる、つまり音程が高くなる。リコーダーを強く吹くと音程が上がるのはこのためである。蒸機の汽笛も同じ理屈で音程が変化していると思われる。したがって音程変化を期待するなら、広い圧力範囲で鳴る笛に仕上げる必要がある。ちなみに、空気と蒸気では音速が異なるので、同じ波長でも振動数は異なり、蒸気の方がより高い音となる。さらに温度が高ければ高いほど音程は高くなる。
蒸気の圧力が高ければ高いほど、蒸気吹きだし口のギャップは広く、開口は長くしなければならない。開口部の形状をU字にすると、開口長さがあいまいになり、その分、音が鳴る圧力範囲が広くなる。楕円形の半円にすればさらに広くなる。三角形にまですると音が悪くなる。
ある蒸気圧力に対して開口長さが適当かどうかは音で判断できる。開口が不足していると、音が裏返って倍音になり、開口が過剰だと、鳴りが弱くハスキーな音になる。開口の形状を変えるのは大変なので、ギャップの方で調整することになる。最初は少ないギャップから初め、ボイラーの最大圧力で鳴らしても音が裏返らなくなるまで、少しずつギャップを増やしていけば良い。ちなみに開口面積は筒の断面積が限界で、そこまで増やしても音が裏返るようであれば、あとは筒を太くするしかない。
和音の汽笛の場合、音量のバランスが取れてないと、和音に聞こえてくれない。しかしギャップの調整でバランスを取ることはできない。ギャップは前述のごとく、送られる蒸気の圧力に対して最適点があり、いたずらに増やしても、音がハスキーになるだけである。和音のバランスを調整するには、配管の方をいじって、各歌口に送られる蒸気の量を個別に調整しなければならない。1本の筒を分割して和音を出すタイプだと、蒸気量の個別調整が難しい。
参考書によると、鳴りの良い汽笛を作るには、筒の長さを筒の直径の5倍以内にするのが良いとのことだが、WILLIAMのわずかなスペースの中で、三和音でそれなりの低音を出すには、このルールを破らざるを得ない。音量より音質優先である。
【設計】
実機の汽笛の音を聴音した。復活C623は五和音で、根音をドとすれば「ドミソシbレ」になっていた。大井川鉄道のC10は三和音で「ドファラ」になっていた。他も何種類か聞いたが、多少の差があるようだ(汽笛は共通部品はずだが)。ちなみにOSのC11は「ドファラ」になっている。OSと同じではつまらないので、五和音の1、3、4音を取って「ドソシb」にすることにした。短調で書くと「ラミソ」になる。実は、とあるビデオでこの三和音の汽笛を聞いたのだが、それがなかなか良い雰囲気だったのだ。
汽笛の設置場所だが、主台枠内部にはすでに空きスペースはない。そこで、空気溜めを装って、キャブ両脇のランボード下に設置することにした。OSのC11と同じ方法である。外観上は空制化してしまったことになるので、それなりのディテールが必要になるが、それは後で考える(コンプレッサ等)。ここに納められるサイズは25mmφまでで、長さは100mmくらいとなる。これを左右に各1本、それぞれ内部を上下に二分割し、1本は高い方の二和音を鳴らし、もう1本は底で折り返して気柱の長さをかせぎ、低音を出す。和音のコードは調律するが、根音の高さは出たとこ勝負とする。
開口の形は、音程変化を優先させて、楕円形にすることにした。長さおよび幅はいずれも16mmとした。実績あるデザインから経験的に求めたサイズである。汽笛内部に凝結水がたまると音が濁ってしまうので、開口を下にして水を排出するようにする。低音側はこれで良いが、高音側は開口が二ヶ所あるので、どちらかが上に向いてしまう。そこで、仕切り板に接するところまで開口をずらし、さらに仕切り板をわずかに傾けて、開口を横に向けることにした。台枠側に向けて、外観上はなるだけ空気溜めに見えるようにする。
【製作】
筒本体には25mmφの真鍮管を使用した(肉厚1mm)。切断にはチューブカッター(写真)を使った。イレクターケースの加工用に買ったものである。真鍮管であれば、あっという間に切断できる。糸のこで切って旋盤で仕上げるほどの精度(垂直度)は出ないが、実用上は問題ない。
開口部は筒の途中にあるので、切り抜きが大変である。まず楕円のケガキだが、CADで楕円を描いてステッカー用紙に実物大で印刷し、これを真鍮管に貼って上からカッターでトレースした。ここを頼りにヤスリだけで穴を仕上げたが、この作業がいちばん大変で、ひとつの穴について1時間近くを要した。まず筒と垂直に丸ヤスリを当ててゴシゴシ削っていくと、やがて中央部分が破れて穴が開く。この穴に丸ヤスリを入れてさらにゴシゴシと拡大し、最後は半丸ヤスリと平ヤスリでケガキのとおりに仕上げた。歌口の直線部分は特に重要なので、油目ヤスリでバリ、カエリをきれいに取り除いた。
汽笛の固定のため、筒本体に、リン青銅製のブッシュをロウ付けした。ランボードとの接触面積を最低限にするためである。蒸気を導入するためのユニオン接続のスタッドもロウ付けした。
ギャップ調整用の円盤はプラグと一体構造にした(真鍮製)。途中に溝を入れてここを蒸気室とする。組み立ては簡単になったが、ギャップの加工に失敗した場合、作り直すのが大変である。ギャップをいろいろ試したい場合は、別部品にして簡単に作り直せるようにするのが良いだろう。
ギャップ加工のために治具を作製した。鋼平角棒に、プラグの外径に合わせた座繰り入れ、これをロータリーテーブル上に正確に芯を出して取り付ける。さらに角度を合わせるための目印も刻んでおく。ここにプラグを入れて角度を合わせてチャックすると、あとはフライスの目盛だけでギャップ深さを決められる。とりあえず三音とも0.2mmのギャップからスタートする。
筒は、1.5mm厚の真鍮板で縦に仕切った。高音側は両端のプラグの内側に幅1.6mmの溝を入れ、ここで仕切り板を受けるようにした。二分割しただけでは当然同じ音程であり、この音程を第二音とする。真鍮で厚さ5mmの半円板を作り、これを片側に挿入して位置を調整し、両方の音程差が短三度(ミ−ソ)になるようにする。低音側の笛にも、歌口のない側に半円板を入れ、これで音程を調整する。高音側の第二音に対し、完全五度(ラ−ミ)になるようにする。
組み立ててテストをするが、汽笛を口で吹いて調整することはできない。圧力の違いが大きすぎるのだ。自転車の空気入れを使う方法が、簡単で確実である。力いっぱい押し込むと、ボイラー圧に近い圧力が出せるので、これで調整してうまく鳴れば、蒸気でもまず問題なく鳴ってくれる。音量バランスを見るため、汽笛弁から先の配管を作って汽笛と接続し、空気入れで二本同時に鳴らしてみた。予想どおり、低音側の1音がやたら大きい。空気量の調整のため、低音側の汽笛の配管スタッドに細密パイプを入れた。スタッド内径が3mmであり、ここに外径3mm、内径1.5mmのパイプ(エコーモデルP3024+P2415)を入れたところ、ちょうど良いバランスとなった。
(続)