2004年3月 「ブレーキ機構」
WILLIAMのような小型ライブでは、ブレーキは乗用台車に設けるのが一般的である。機関車にブレーキを付けても、編成中で最も軽いのが機関車なのだから、制動力はまったく期待できない。というわけでWILLIAMの設計図にもブレーキは入っていない。しかし動輪の前に貼り付く大型のブレーキシュー、軌道に平行して走るブレーキロッドなどは、ぜひとも表現したいディテールである。そして、どうせ作るなら、ダミーではなく可動にしたい。こういう場合、制動ブレーキではなくパーキングブレーキにするという手がある。信頼性、耐久性などは考えなくて良いので、工作は楽になる。すべての動輪に均等に力をかける必要もないので、釣り合いテコは使わず、すべてのブレーキロッドを一直線に接続しても良い。
主台枠にはブレーキ吊り固定穴が開いている。この穴をM4に拡大し、ねじ込み式のピンを作って入れることにした。写真ではわかりづらいが、反対側は段差加工をして、途中までM3のネジを切ってある。ピン本体は丸棒だが、側面に、対向する平面を削り出し、ピンをレンチで回せるようにした。
ブレーキシューは複雑な形状をしているので、加工を簡単にするため真鍮製とした。真鍮平角棒に、CADで印刷した実物大図面を貼り付け、ピン穴を開けてから、糸ノコでおおまかな形に切り出す。
個数が多いので、治具を作って加工する。ロータリーテーブル上に治具を取り付け、外側の「くの字」形状を仕上げ、続いて車輪のトレッド面に接するR形状を仕上げる。両端の仕上げもここで行った。ちなみに、このあと出てくるブレーキ吊り、フォークエンド、アーム類のR加工も、ここで行っている。
ここで説明を加えておくと、部品の加工は、ホームページで紹介している順序でやっているわけではない。すべての部品に必要な加工を細分し、同じ種類の加工をまとめてやっている。その方が、断然効率が良いのだ。
バーティカルスライダーに治具を固定し、ブレーキシューを固定して、メタルソーでブレーキ吊りの入る溝を掘る。治具はさきほどのものと兼用。
参考までに、使用した治具の図面を示す。黒丸の位置に3mmと4mmのピンを刺せるようになっている。左端のピン位置がロータリーテーブル中心となる。4mmのピンは、加工物の固定角度を決めるためのもの。赤の線がそれぞれの位置で加工される面を示す。
ブレーキ吊りは平鋼材から作り、ブレーキシューをピンで固定する。ピンは表をナット、裏をEリングで固定した。わずかに遊びを持たせて、動輪の上下動に追従するようにした。
ブレーキ梁も平鋼材から作った。両端のネジ部は、まず糸ノコで両肩を落として角棒状にしておき、丸棒状に旋削して、M3ダイスを切った。
瞬間接着剤で3枚を貼りあわせて、エンドミルでまとめて外形を仕上げる。
ブレーキロッドの端部に付けるフォークエンド類は、真鍮角棒から作った。四爪チャックで、ロッドねじ込み部を旋削、ネジ穴開けしてから、切断して反対側を仕上げた。フォーク部分は、3mmのエンドミルで抜いた。ブレーキロッドは一直線に接続するので、中間フォークエンドは、二個が一体となった構造にした。
ブレーキを操作するブレーキハンドルは、ステンレス丸棒から組み立てた。スピンドルとヘッドは、圧入してからピンを通して固定した。L型の取っ手はロックタイトで接着した。スピンドルの途中に見える細い溝は、Eリングを入れるためのもの。
主台枠への追加工のため、再び下まわりを分解。ハンドルは、キャブ内にポールを立ててその先に付けるのが一般的だが、今のキャブ配置だと、どこにポールを立てても運転操作の邪魔になる。仕方がないので、床に直接ハンドルを付けることにした。ブッシュは真鍮ブロックから作り、ランボードに取り付けた。
ハンドル先端はリン青銅製のナットにねじ込まれ、このナットをはさむ形でアームを取り付ける。ハンドルを回すとナットが上下して、アームが動く。アームの穴が長穴になっている点に注意。ここにナットの凸部(表裏にある)が入る。ずいぶんと貧相なアームだが、汽笛を付けると完全に隠れてしまうので、これでいいのだ。
写真は、主台枠をひっくり返して後ろから見たところ。アーム(写真左下)が動くと、第一シャフトが回転し、リンク機構で主台枠下端の第二シャフトに回転が伝達され、シャフト両端のアームがブレーキロッド後端のフォークエンドを手前に引いて、ブレーキがかかる。第一シャフトは、主台枠に貫通穴を開けて通しただけ。第二シャフトは、中間梁に真鍮製のブラケットを付けてここに通した。各シャフトは、アームのセットビス当たり面をわずかに平面に削った。緩み防止のためと、何度組み立ててもアームが同じ角度に付くようにするためである。
ブレーキロッドは、3mmの鋼丸棒の両端にねじを切ったもの。両端にフォークエンドをねじ込んで長さを調整し、ロックナットで固定する。しかし、すべて順ネジを使ったので、長さの微調整ができない。仮組みして各フォークエンドとブレーキ梁の相対位置を決め、瞬間接着剤で仮固定し、フォークエンドのピン穴をブレーキ梁に移し開けた。ピンは、例によってEリングで両端を止める構造とした。
第三ブレーキ梁だけは、フォークエンドをリベット4本で完全に固定し、中央部をばっさり切り落とした。こうしないと灰箱が取り出せなくなるからである。制動ブレーキでは、こんな構造は許されないだろう。
実際のところ、ライブでパーキングブレーキを使う機会はほとんどないのだが、動く機構がそこにある、ただそれだけで満足できるのが、模型マニアというものである。
(終)