1999年11月 「内ボイラー」
【クラウンステイ】
クラウンステイは、火室の天井を耐圧構造にするためのものである。
内外火室を接続するタイプが一般的だが、
WILLIAMの設計だと、内火室のみを補強する構造になっている。
アングル状の部品を背中合わせに貼り合わせたものを2組、
内火室の天井部の全長に渡って貼り付け、さらに両者をブリッジでつなぐ。
以下がその断面図である。
水漏れには関係しない部分だが、
全面銀ロウ付けして強度をかせぐ必要があるので、
ここもやはり隙間ができないように調整したい。
火室天井は曲面になっているので、アングルは外側が鈍角に、
内側が鋭角になり、天井と接するフランジ面は、
わずかだが曲面にしないといけない。
いつものように銅板を切り出し、焼鈍する。
所定の角度まで曲げる治具を作製し、
これに、焼鈍した板をピンで位置決めして固定し、
万力にはさんでハンマーで叩く。
ここもやはり1回の焼鈍では完了しない(写真)。
内外の板が整形できたら、定盤上で突き合わせ、
クランプで固定してリベット穴を開け、酸洗浄して組み立て、
まずこれだけを銀ロウ付けする。
続いてこれを内火室天井の曲面に合わせるため、
外径200の鉄パイプ(前回はズンドウナベを用いた)に、
クランプ治具でむりやり締め付けて整形する(写真下)。
ここまでを左右2組作り、内火室上で位置決めして、
間をつなぐブリッジの寸法を決める。
ブリッジは銅板をコの字型に曲げたもので、
こちらも曲げ位置を正確にするために治具を使った。
部品が揃ったら、それぞれリベット固定用の穴を開け、
とりあえずビス&ナットで組み立てて火室に固定し、
隙間ができないように調整しておく。
【内火室の銀ロウ付け】
内火室の全ての部品が揃ったので、以下の手順で、つぎつぎと銀ロウ付けしていった。
(1)管板を内火室板に付ける
(2)クラウンステイを内火室板に付ける
(3)煙管を管板に付ける
後板はボイラー完成直前まで付けない。
これは内外ボイラーをつなぐサイドステイの銀ロウ付けを簡単にするため。
(1)管板を内火室板に付ける
フラックスを塗ってリベットで固定し、後を下にして置き、
管板の外に銀ロウを並べ、中から加熱して銀ロウ付けする。
リベットに銀ロウを流すため、
「J」の字に曲げた銀ロウをリベットのすぐ上に引っかけておく。
管板には多数の煙管穴が開いているが、
穴に囲まれたデルタ部分は熱の逃げ場がなく、
加熱で焼損しやすいので、
写真のような銅板をネジ固定して保護をした。
この段階ではまだ熱容量は小さいので、
銀ロウ付けはすぐに終わる。
(2)クラウンステイを内火室板に付ける
ここは接合面積が大きい。
火室を横倒しに置き、内火室と同じ長さに切った銀ロウを、
クラウンステイのフランジ部の横に置いて、横から流す。
左右それぞれ内外フランジがあるので、銀ロウは4本使用した。
うち2本は、内外フランジの間の隙間に押し込んでおく。
基本的には火室内部から加熱するのだが、クラウンステイはかなり熱容量があり、
全体を均等に予備加熱しておかないと、銀ロウが溶けてくれない。
ここでいったん冷まして洗浄し、最後にブリッジを付ける。
火室の前を下にして置き、ブリッジのフランジ部分に銀ロウを流す。
なお、リベットのたぐいは、それぞれのタイミングで銀ロウを流せるときに流しておく。
方向の関係で銀ロウを置けない場合は、銀ロウをすり下ろしてフラックスで練ったものを塗っておく。
また、フラックスは溶けてから数分間は有効なので、
途中でいったん火を止めてすばやく向きを変え、銀ロウを置き直して再加熱することができる。
その場合、フラックスは最初にまとめて塗っておく。
(3)煙管を管板に付ける
ここは洩れると補修が難しく、
しっかり銀ロウ付けをしないといけない部分である。
全ての煙管にはφ1の銀ロウを二重巻きにする。
煙管に直接巻いたのでは輪が拡がってしまうので、
煙管より小さめの丸棒に銀ロウをコイル状に巻き、
二巻きごとに切断したものを、あらためて煙管に入れる。
これを管板に差し込んで、銀ロウを根元に落ち着かせる。
煙管の先端には、位置決めのため、煙室管板を入れておく。
火室は後ろを下にして置き、
火室内部から管板と煙管を加熱して、銀ロウ付けする。
煙管のみが過熱しないように、色を見ながら炎の角度を調整する。
終わったら酸洗浄して、
全ての煙管の銀ロウが火室内部まで回っていることを確認する。
【外ボイラーのフランジプレートの仕上げ】
ここで外ボイラーに戻り、煙室管板と外火室後板を完成させる。
煙室管板の穴開けの説明を忘れていたが、
こちらはユルミバメなので穴を傾ける必要はなく、面板へ固定して開けるのみ。
外火室後板の穴開けは済んでいる。
あとはブッシュ類を作って銀ロウ付けすれば良い。
いったんブッシュを付けると、型板を用いた修正が二度とできなくなるので、
タイミングを見はからう必要がある。
外火室後板には多数のブッシュがある。
大きいのはレギュレータブッシュで、
これはREEVES製の鋳物から旋盤で削り出す。
他の小さい物はφ15のリン青銅丸棒から削り出した。
手順は、ボイラー胴部分のブッシュ類と同じで、はめ合いは固めにしておく。
できたら穴に入れて、平行を確認する。
特に重要なのが、レギュレータブッシュの平行度である。
レギュレータブッシュが缶胴と正確に垂直になってないと、
取り付けるレギュレータが傾いてしまい、煙室管板の穴に入らなくなる。
あまりにも傾いている場合は、外火室後板の方を修正する。
なお、水面計ブッシュだけは、穴が後板端部のR部分に掛かっているので、
どうしても左に傾いてしまうが、組み立てる上で問題はない。
ブッシュ類は裏から銀ロウを流して付けるので、ポンチでカシメて固定する。
輪にした銀ロウを裏側にかぶせ、表を下にして、下から加熱する。
煙室管板のブッシュは、数は少ないが、蒸気口ブッシュという難物がある。
形が複雑であり、REEVES鋳物から削るが、
きれいに仕上げたいので、全面加工した。
ひし形の直線部はエンドミルで削り、R部はヤスリで仕上げた。
ここのシールにはOリング(バイトン)を使うつもりなので、
Oリングポケットも削った。
Oリングの当たり面は、仕上げバイトで極力ていねいに仕上げ、
研磨剤で磨いておく。
蒸気口ブッシュの銀ロウ付けも裏からロウを流すが、
フランジ面が広いので、ロウが回りにくい。
銀ロウを多めに巻いて、過熱に注意しながらしみ込ませる。
溶けた銀ロウがしみ込むのに10秒程度かかったが、
銀ロウはフランジ全面をきれいに覆ってくれた。
しかし左右のネジ穴にまで充てんされてしまい、
ネジを切り直すはめになった。
【内外ボイラー仮組み】
ひととおり部品が揃ったので、ここで内外ボイラーの仮組みを行う。
まず、煙室管板を缶胴の所定位置に挿入し、缶胴外側からリベット穴を貫通させる。
しかし、穴を開けている途中で煙室管板がずれてしまい、穴位置がずれてしまった。
そこで短く切った銅リベットをずれた穴に差し込んで、ヤットコで固くつぶして穴をふさぎ、
今度は煙室管板がずれないように前後からツッカエ棒を押し付けて、穴を開け直した。
ここもとりあえずビス&ナットで仮固定。
続いて外ボイラーに外火室後板を仮止めするが、
レギュレータブッシュがボイラーと正確に垂直になるように仮止めした。
やり方は以下のとおりで、旋盤を治具として用いた。
まず外火室後板は、上1点のみ外ボイラーに緩くネジ止めしておく。
レギュレータブッシュを仕上げたヤトイを三爪チャックして、
これをレギュレータブッシュの穴に入れて固定する。
一方、心押し台のドリルチャックに丸棒をチャックして、蒸気口ブッシュの穴に入れる。
これでボイラーは旋盤のベッドと平行に保持され、
しかも両端のブッシュは主軸に対して垂直に保たれたことになる。
ここで外火室後板の状態を確認すると、後に傾いていた。
つまり、レギュレータブッシュが外火室後板に対して前に傾いていたことになる。
そこで、この状態のまま外火室後板を手で持って、エイヤ!と傾きを修正した。
後板の角度がボイラーとほぼ垂直になったところで、
後板上部のネジを締め、後板すそはクランプでボイラーにしっかり固定する。
そのまま旋盤から外し、外火室後板の固定用の穴を開ける。
ここはM2真鍮ネジによる固定となるので、下穴であるφ1.6穴を貫通させる。
M1.6のビス&ナットで仮止めしたが、内ボイラーを入れるためにまた分解。
内ボイラーには内火室後板をネジ止めしておく。
後ろから内ボイラーを挿入して、煙管の先端を煙室管板に入れる。
先端のテーパー部分はすぐに入るが、それより奥は、
内ボイラー全体を上下にこじりながら入れる。
続けて外火室後板を入れるが、同時に、
外火室後板の穴に、内火室後板の焚口輪を入れる。
外火室後板を再びネジ止めし、
焚口輪の段差が外火室後板に当たるまで内ボイラーを後退させると、
内ボイラーが完全に位置決めされたことになる。
ここで煙室管板からの煙管の飛び出し量を確認する。設計では1.6mm。
内外ボイラーを組み合わせると、重量は一気に増える。
手に持つとズッシリと重く、こんなものが銀ロウ付けできるのかと不安になる。
この後、底枠、サイドステイと難関がひかえており、完成はまだ先である。
【番外編】
ここ数ヶ月で導入した工具を紹介する
1.ボール盤(T社 DP-13B)
ミニフライス盤のドリルチャックだとφ6.5までの穴しか開けられないので、
φ13までチャックできるボール盤を導入した。
工業用のものは高価だし重たいので、
DIY用のものを買ったのだが、
はっきりいってこれはハズレだった。
どうも垂直な穴が開かないので、
右下の写真のような治具を作ってチェックすると、
主軸とステージとの傾きが3/1000もある。
横方向には傾き調整機構があるが、
前後に傾いているのでどうしようもない。
ちなみに、同じ治具でミニフライス盤の
主軸傾きを測定すると0.5/1000であった。
さらにチャックの精度が悪く、芯ブレが大きい。
回転数の調整しろも少なく、特に最低回転数が高すぎる。
よって、大径の穴を開けようとすると、激しいビビリを生じる。
欠点だらけのシロモノだが、パワーだけはあり、
10mm厚の鋼板にφ10穴をバカスカ開けられる。
ということで、これは今のところ、
クランプ治具などの穴開けにしか使っていない。
このクラスのボール盤はすべからくこんなものだろう。
改めてここで、
「日曜大工用の工具は日曜大工にしか使えない!」
2.ロータリーテーブル(G&J RT-6)
すでに型板作製で紹介した。
平岡幸三氏の「生きた蒸気機関車を作ろう」などを読むと、
ロータリーテーブルの代わりに手回し治具を作って
工作をする方法が紹介されているので、
ロータリーテーブルはぜいたく品だと思っていた。
確かに単一機能のわりには高価である。
しかし型板を設計している段階で、どうしても欲しくなり、
商社から定価の半額程度で入手したが、
これははっきりいって「買い」だった。
大型のハンドルによる操作は実にスムーズで、
ミニフライス盤のXYステージなどよりよほど扱いやすい。
回転角度はバーニア付きで分単位で管理できるので、食い込みの心配がない。
側面1面が平面加工されていて、写真のように、垂直に立てて使えるので、加工用途が拡がる。
もちろん割り出しにも使える。
唯一の不満は大きくて重たいことで、ミニフライス盤では加工範囲が限られる。
さらにステージ半径がマイフォードの主軸高さより大きいため、旋盤では使えない。
しかしこれは剛性の高さとトレードオフなので仕方がない。
3.精密バイス(G&J VD-75)
長らく、ボール盤用のヤンキーバイスでミリングしていたが、
精度が出ずに悩んでいた。
最初は剛性の低いミニフライス盤が原因かと思っていたが、
テストインジケータでヤンキーバイス口金の精度を測って、
あまりの悪さにこれが原因と気付いた次第。
ということで、フライス盤用の精密バイスを導入したら、
見事に加工精度が上がった。
移動口金のガタも少ないので、変形物でもしっかりチャックできる。
「ミリングの精度はフライス盤ではなくバイスで決まる」と誰かが
言っていたことを思い出す。
ただしこれも不満があり、ステージへのチャックがやりにくいこと。
固定穴などは開いておらず、本体左右に溝があるだけなので、
専用のチャック治具を作らないと固定できない。
4.Keats angle plate/V block unit
旋盤で、正確に垂直なふたつの面を削り出すにはどうするか。
まず1面を削り、面板にアングルを立てて、もう1面を削れば良い。
では、そのふたつの面いずれにも垂直な
第三の面を削るにはどうするか。
シリンダーブロックなどの加工にはこれが要求される。
これを簡単にできるのがこの治具である。
いわゆるVブロックだが、旋盤の面板に取り付けると、
Vのふたつの面がいずれも面板に垂直になるようになっている。
Vの反対側の面も垂直で、こちらはアングルとして使用できる。
加工物を固定するクランプも付属している。
英国の参考書で知り、Internetの通販で中古のものを買った。
"Keats"の名で買ったが、EXE ENG. Co Ltdと刻印されており、類似品かもしれぬ。
(終)