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2006年5月 「新プロジェクト」


以前より何度か予告していたが、2台目には5インチ国鉄型を選んだ。大型のライブを自作するのはこれが最初で最後になるかもしれないので、機種は最終目標のC53とした。スケールは1/8.4であり、WILLIAMオリジナル設計の1/16と比べて約2倍、体積にすると約8倍ということになる。これは1番ゲージと3インチ半ゲージとの違いに相当する。さらに構造の複雑さ、ディテール部品の多さはWILLIAMの比ではない。WILLIAMと同じ「凝りすぎ工法」では、一生かかっても完成しないだろう。しかしディテールは省略したくない。メーカー品と同等の完成度をめざしたい。そのためには、設計、工法を一から見直す必要がある。

まず無垢の金属から削りだす工程を極力少なくする。そのために、部品は可能な限り鋳物かレーザ加工で準備する。鋳物には木型が必要だが、木型作製を効率よく進めるために、三次元加工機「モデラ」を導入する(後述)。レーザ加工部品は、必要なら曲げ加工も同時にやってもらう。そして、ボイラーは外注を前提とする。前作では「自分でできることは自分でやる」を信条としていたが、今回はひたすら「他力本願」である。

設計は、鉄道史資料保存会編の「C53形機関車明細図」を参考にした。なにごとも、しゃくし定規な私としては(自分で言うな!)これがないと工作を先に進められない。数年前、この本を入手できたことで、このプロジェクトが現実のものとなったのである。これのおかげで、あらゆる部品の形状を実物とたがわず設計することができる。ただし外から見えない部分については、かなり簡略化した。技功舎の設計など、見えない部分まで実機にこだわっている部分が多く、自分はそこまでやるつもりはない。さらに鋳物に関しては、抜き勾配による制限と、鋳造の簡略化のため、かなりデフォルメせざるを得なかった。

現在までに設計した下まわりを、3D画像で紹介する。構造をわかりやすくするため、あえて車輪は描いていない。主台枠には釣合梁(イコライザ)と制動装置(ブレーキテコ)が組み込まれる。左右それぞれ第一動輪から従台車までが釣合梁で接続されている。そして先台車のピボット軸が1点、合計で3点支持となる。ここに描かれた部品のほとんどは、鋳物またはレーザ加工である。

足まわりに関しては、OS仮設線路の半径7.5メートル通過を目標とした。一本松レイアウトが使えない以上、仮設レイアウトで動かせないことには運転の機会がほとんどなくなってしまうからである。CAD上で検討し、以下のように設計変更した。

 ●後台枠および従台車台枠の幅を、左右それぞれ3mm、合計6mm拡大する
 ●後台枠の従輪が当たる部分に、内側から肉厚の半分までザグリを入れる
 ●第一動輪の横動を左右それぞれ1mm、合計2mmとする
 ●第二動輪の横動を左右それぞれ3mm、合計6mmとする
 ●第三動輪の横動を左右それぞれ2mm、合計4mmとする
 ●第二クランクピンのみ±1.2mmの横動を入れる
 ●先台車ピボット軸の左右ストロークを、車輪がピストン尻棒に接触しないぎりぎりの範囲まで拡大する
 ●従台車軸箱上の滑り子の長さを8mm延長する
 ●メインロッド、サイドロッドのブッシュの穴は、傾き可能なようにテーパー加工する
 ●中央ロッドのビッグエンドは±3mmの横動を確保する
 ●タイヤコンタは127mm軌道に対して横動±1mmを許すようにする
 ●ブレーキシュー断面形状は、各動輪の横動に応じて左右に拡大する

組み立ては、OS曲線線路上で行う。組み上げた時点で、半径7.5メートルを通ることが証明されるというわけである。



これが問題のモデラ(MDX-20)。ローランドDGのホビー用NC工作機械である。私としては、フライス盤以来の大型投資となる。まわりを囲っているのは防音ケースで、これのおかげで、夜間に無人運転ができる。データを入力して加工開始を押せば、あとは勝手に部品を削ってくれるという、まさに今回のコンセプトにピッタリの機械なのである。ただし、三次元データの作成には、それなりの熟練と時間を要する。

仕様では、アルミ・真鍮も切削可能ということだが、実用上は不可能と考えた方がよい。木やプラスチックでも、堅いものは加工にとても時間がかかる。これで容易に加工できる木型用の材料としては、多少値がはるが、ケミカルウッドがベストだろう。具体的には「サンモジュールMH」などが良い。ケミカルウッドは業務用の木型材料としても多用されている。加工表面がなめらかで、木型用の表面処理が不要である。

基本構造はフライス盤なので、使用する刃物はエンドミルということになる。ただし通常のストレートエンドミルではなく、「深リブ型ボールエンドミル」というものを使う。首が異常に長く、刃は先端の半球部分にのみ付いていて、首は刃の直径よりやや細くなっている。金属などはとても削れないが、柔らかい材料であれば、深いところまで、垂直の壁でさえ、上から削り出すことができる。モデラによる木型作製では、1方向からの加工ですべての形状を仕上げてしまうことが多く、こういうツールが必須となる。そして三次元曲面をなめらかに仕上げるためには、先端はストレートではなくボールが適当ということになる。


加工範囲はせまく、大型部品は1回では削れない。分割して削ってからエポキシ接着剤で貼り合わせる。動輪は四分割で削って貼り合わせた。三次元データの作成には、プロ用の3D-CADソフトを使用したが、アマチュアの手が出る値段ではない。一般的には「Shade」でもデータ作成は可能である。ただしスポーク動輪に限っては、プロ用のソフトを使っても、図面どおりにモデリングするのは難しい。他の部品はひとつ数時間でモデリングできたが、動輪には2週間を費やした。


完成した動輪の木型。左が第一第三動輪、右が第二動輪である。三気筒なので、カウンターウェイトが偏った位置にあり、これがC53のひとつの特徴になっている。さらにC53のスポークは、断面が卵形ではなくオムスビ形になっている。そこであえて両面割りではなく片面割りにした。



モデラで荒削りを終えた小車輪。テンダーも含めて同じデザインで統一した(実物はわずかに異なっている)。材料は両面テープで固定されている。軽切削なのでそれでじゅうぶんなのである。土台として使っている水色の材料は、モデラのテスト切削用として使われる発泡ウレタン。

モデラで木型を1個削るのに、小さいもので2時間、大きく複雑なものは10時間以上かかる。この間、スピンドルは回り続けるので、当然ながら刃物、モータ、スピンドルが摩耗する。モータとスピンドルの寿命は約700時間。一式交換すると3万円ほどかかる。おおよそ計算すると、木型1個につき、材料費込みで数百円から数千円のコストがかかる。それでも木型を外注するよりは、はるかに安い。もっとも、廃木から手作業で作れば、木型なんてほとんどただ同然でできるのだが。

モデラはツールに過負荷かかると、自動的に切削を中止するようになっているが、たまに原因不明で止まってしまうこともある。木型をはずす前に状態をよく確認し、途中で止まっている場合はそのまま最初から切削をやり直す。旋盤やフライス盤であれば、ネジ1本まで描かれた組立図があり、装置のすべてを把握できるが、この手の自動機械はパソコンと同じで、私にとっては全くのブラックボックスである。


木型ができても、鋳造してくれるところがなければどうにもならない。私の場合、鋳物の町「桑名」で鋳造の開発をしているK氏にご協力いただき、鋳造のみならず木型作製のノウハウについても教えてもらうことができた。以前にも書いたが、手込めをやっている鋳造所はどんどん数が減ってきており、探し出すのが大変である。いずれにしろ機関車1輌分の鋳物では商売にならないので、商売抜きで協力してくれるところを探さなければならない。これが大型ライブ自作の大きな障害となっている。その点では、たいへん幸運なスタートを切ることができた。



できあがった動輪と車輪。材料は強度の高いFCD(ダクタイル鋳鉄)である。前作では動輪鋳物がなかなか手に入らなかったが、今回は最初にこれがそろった。ながめているだけで工作意欲がわくというものである。

特殊な鋳造法を使っており、鋳肌がとてもきれいである。実物通りの形状でモデリングしたためか、動輪中央部の抜き勾配が小さく、鋳造の歩留まりが悪かったらしい。実際、ピンホール欠陥が見られるものもあるが、強度に影響のない程度のものなので、金属パテで埋めて使うつもり。スポーク動輪は切り立っている部分が多いため、鋳造はかなり難易度が高く、美術品の範疇に入るものらしい。(私の設計が悪いだけかもしれないが・・・)



主台枠と後台枠のレーザ加工および、後台枠の曲げ加工を外注した。友人の紹介で、曲げ加工で実績のある、広島スチール工業に依頼。レーザ加工だけなら、できるところは無数にあるが、正確な曲げ加工となると職人技で、できるところは限られるらしい。主台枠は厚さ10mmにしたかったが材料が手に入らず、12mmとなった。後台枠はその半分の6mmである。12mmと6mmのその他の部品も同時に切り出してもらった。

レーザの熱によって主台枠が2枚、同じ方向に反ってしまうと、矯正しなければ使いものにならない。左右別々で反対勝手に作図し、そのとおりカットしてもらえば、反りも反対勝手になるので、組み立てで相殺されてまっすぐになる。データ処理量は2倍になるが、その方が安全である。








数年ぶりに京都の梅小路に出向き、C5345を撮影。デジカメで細部の写真を200枚ほど撮ってきたが、やみくもに撮影したため、同じようなアングルが多く、見たいという部分が抜けている。模型作りのために実機を撮影する際は、まず確認したい項目をリストアップしてからのぞむべきと反省した。
実機は、設計と異なっている部分がけっこう多かった。新型機の登場とともに、少しずつ改良された結果だろう。私のC53はとりあえず設計の方に従うつもり。

息子を連れて行くことで、旅費を家計から捻出!


次回の内容、更新時期については未定です。


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