2006年8月 「下まわり木型作製」
ライブスチームの世界では、模型のディテールに関して、わりと大ざっぱである。耐久性が第一だし、まともに走るものを作るだけでせいいっぱいということもある。とはいえ小型模型経験者としては、やはり譲れない線がある。ナンバープレートを取り付けるからには、その機番を実物どおりに再現する、すなわち特定番号機の再現というのを意識せざるを得ない。ということで、まずはC53再現のための資料を紹介する。
「C52・C53 (The echo of three cylinders)」プレス・アイゼンバーン
1973年に2000部限定で出版された貴重な本だが、とにかく驚異的といえる内容である。まず写真が大量にある。ほとんど全機番の写真がそれぞれ複数枚、年代を追って掲載されている。巻末には機番索引まで付いている。さらに当時の最高峰のC53模型も紹介されている。写真だけでなく文章の資料も多数あり、年代による仕様の変遷も詳しく解説されている。おまけにC52ナンバープレートの魚拓?まで付いている。もはや芸術的資産といってよいほどの内容で、編者である松本謙一氏に改めて敬服した次第である。この本は、模型界でC53を再びメジャーな機種に引き上げるだけの力を持っており、ぜひとも再版してほしいものである。
「月刊とれいん 193号〜230号」
私のHPを見られたM氏よりいただいた情報だが、カツミOJゲージC53の製作記事が不定期で連載されている。ここでは松本謙一氏みずからが特定番号機の再現に挑戦していて、「C52・C53」以降に得られた情報も掲載されている。ここで読んだ話だが、鉄道省から発行されているC53の設計図には、複数の年代が入り乱れており、あの図面のとおりに作ると、けっして存在しないC53が完成するらしい。私はくだんの設計図を入手して勝ったつもりでいたが、とんでもない落とし穴があったわけである。
プロトタイプは未定だが、姫路区所属で、故 西尾克三郎氏の美しい形式写真のある19号機か20号機を考えている。これを前提に、すべての設計を再チェックした。前回はあわてて設計したので、部品の方向をまちがえるなど単純ミスも多く、それも修正した。下が修正後の3D画像で、今回は車輪付きにしてみた。先輪と従輪のリムの幅の違いに注目!
前回の報告のあと、MODELAでひたすら木型を作り続け、下まわりの工作に必要な鋳物の木型がほぼ完成した。写真がそのすべてである。MODELAのおかげで、1日1個のペースで作ることができた。左上端の1個だけ色が違うが、これは桜の廃材からフライス盤で作った、アングルプレートの木型である。
ケミカルウッドはとても高価な材料なので、ムダなく使わなければならない。大型のはあらかじめ、素材をおおよその形状に組み立て(接着)しておいてから切削する。切り出した余剰の材料はすべて取っておき、寸足らずの部分は貼り合わせて新たな材料として使った。写真は「後台枠強メ鋳物」。
鋳造方法の違いを図で示してみた。以下、何種類かの木型で説明する。
【従台車軸箱(単体型)】
最も単純な、片面が平面の木型。前回紹介した動輪も単体型である。
【前台枠鋳物(割り型)】
割り型は、両面木型が、中央の「見切り面」で分割されている。両方の木型の位置を決めるためのピン(ダボ)が必要で、この例ではピンを立てる面積がせまいので、直径3ミリの竹ヒゴを利用した。
【従台車釣合梁(捨て型)】
捨て型は、木型を分割できない場合、見切り面が平面にならない場合などに用いる。作例の場合、木型を分割しようとすると薄くなりすぎて強度がもたないので、捨て型を用いた。捨て型の材料はケミカルウッドではなく、スタイロフォームというウレタン発泡材を使った。安価な材料だが強度が弱く、鋳造1回で使い捨てとなる。なお捨て型は、造形時に砂を盛りつけて直接作ることもできる。
【制動筒(中子型)】
鋳物の内部に空げきを設ける場合、あるいはアンダーカットのために木型が抜けない場合は、中子(なかご)を用いる。中子を支えるために両側に張り出しが必要で、この張り出しは木型側にも含め、砂型では逆に空げきとなる。これを幅木という。写真は制動筒の分割木型と中子取り、そして右下のものは制動筒の取り付け台座で、これは単体型である。
【加減リンク受鋳物(捨て型+中子型)】
今回作製した木型の中で最も複雑な形状をしているのが、加減リンク受鋳物(モーションプレート)である。市販の鋳物を見ると、動輪よりも高い値段で売られていたりする。図は完成鋳物の形状だが、中央部に加減リンクが収まるスリットがあり、この部分は中子で形成する。そして鋳物の前後にそれぞれ側面窓があるが、前と後で微妙な段差があり、鋳物を平面で分割することができない。したがって木型は、捨て型+中子型ということになる。
スリットの前後はクローズされているので、幅木は上下に設ける。前後に張り出す中子を安定的に保持するため、矩形の広い幅木とした。 写真右が中子取りで、幅木部分に段差を付けるため、二重構造とした。
左は、捨て型から木型をはずしたところ。捨て型には、木型裏面の形状に対応したくぼみがある。
加減リンク受は、MODELAの切削範囲を超える大きな鋳物なので、分割して切削したものを貼り合わせて作った。表と裏も貼り合わせた。左右反対勝手で、中子取り、捨て型とあわせて、MODELAでの切削回数は15回に及んだ。
木型、捨て型、中子にはすべて抜き勾配を付ける。勾配の方向を図で示したが、捨て型の表面を基準にしてその上下で勾配の方向が逆になる。今回の木型は、形状に応じて1.5度から3度の抜き勾配を付けた。なお収縮率は1%で統一して、MODELAでデータを読み込んだあとに、全体を101%に拡大した。
レーザ加工の部品を追加で注文した。今回は、倉敷市内の
大松精機 に依頼した。板厚は2ミリ、3.2ミリ、4.5ミリ、9ミリの四種類で、材料は指定せずに在庫のあるものを使ってもらったので、磨き、黒皮、酸洗いとさまざまである。機関車の部品だけではなく、加工のための治具も含まれている。たとえば左上の大きな円盤は、マイフォード旋盤の面板を拡張するためのもの。それぞれ単価は数百円だったが、数が多いのでけっこうな値段となった。前回の主台枠関係とあわせて、HOの高級キットが買えるくらいの出費となった。
WILLIAMの時とくらべると、金の出て行くスピードが早い。やはり全自作は安あがりなのだと実感した。まあ、金がなくなったら自分でこつこつ部品を作って、食いつないでいくことにしよう・・・