2010年7月 「ピストンリング改良」
現在一時帰国中で、この機会を利用して、工作が未報告の部分を報告する。
ピストンリングの製作方法について平岡幸三氏から直接アドバイスをいただいた。氏の"The
PENNSYLVANIA A3 SWITCHER"(英語版)に、理想的なピストンリングの製作方法が掲載されている。非常に興味深い内容で、ぜひトライしてみたくなった。現状のピストンリングは、動きが予想以上に固いという不満があり、これを機会に作り直すことにした。
動きが固いのはピストンリングの張りが強すぎるためで、張りを弱める必要がある。ギャップは解放状態で0.6mmしかなく、これ以上小さくしたくない。となるとリングの断面形状を変えることになる。現状では、厚さが径方向・軸方向ともに2mmで、どちらかを縮めれば良い。径方向を1mmに縮めると、扁平すぎて真円度に影響が出そうなので、軸方向を1mmに縮めることにした。これで張力は半分になるはずである。
まず、以前と同じように快削リン青銅丸棒の内外を仕上げて突っ切っていくのだが、外周は最終寸法より大きめに仕上げておく。突っ切るたびに端面をバイトでクリーニングして、突っ切りによる荒れを取り除いておく。さらにバリも取り除く。
突っ切った反対側の面は、前回と同じような研磨治具を使って、定盤の上に置いたサンドペーパーで研磨をした。
ギャップを切る。今回はアングルバイスを用いて、軸方向から45度傾けて切った。ちなみに平岡氏の本には、エンドミルを用いてステップてギャップを切る方法が紹介されており、その方法だと、漏れをほぼ完全に防ぐことができる。今回はリングの厚さが薄いので、ステップ法は採用しなかった。
ここからがポイント。ピストンリングに細い針金(ここでは0.3mmのステンレス線)を巻きつけ、それを絞ってギャップを閉じさせる。その状態でヤトイに挟みこんで固定する。ヤトイはリングの端面を前後から挟む構造で、固定後に針金を外しても、ギャップは閉じたままである。さらにヤトイの中心部分の径は、ピストンリングの内径よりわずかに小さくなっており、ピストンリングはわずかに偏心した状態でヤトイに固定される。ギャップを下に向けて、下に偏心させて固定する。
このまま外径を、最終寸法に仕上げる。軸方向のバリを防ぐため、ヤトイもろとも最終径に削っている。2枚目以降は、バイトを同じ位置すなわち刃先がヤトイに当たる位置まで削って仕上げる。それでもごく薄いバリが残ったため、これも定盤に置いたペーパーで除去した。
できあがったピストンリング。この加工方法で作れば、リングは縮んだ状態で最も正確な円になる。針金で締めるのは、円周の全方向から均等な力で押し縮めるためである。
さらに径方向の幅が、ギャップに近づくほど小さくなっているのがわかるだろうか。外周切削の際にリングを偏心させた結果がこれ。この形状だと、押し縮めたときの面圧が、周方向で均一になるのだ。
ピストンリングが薄くなったのでガイドリングも変更となる。これも快削リン青銅から作り直した。
改めて組み上げたピストンバルブ。これで動きは随分と軽くなった。最初の分解の際に、ロックタイトを溶かすために電気炉で加熱したので、バルブ本体が青っぽく変色してしまった。