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2024年10月 「砂まき器」


以前より部品製作に真鍮ロストワックスの外注を活用できないか模索していた。目的は、機械加工で作りにくい複雑な形状の精密部品をモデラで削り出すことである。モデラで真鍮は削れないので、柔らかいモデリングワックスを削り、それをロストワックスで金属部品に変換してもらう。今まではモデラで木型を削って鋳造を依頼していたが、それでは精密部品は作れない。ロストワックスであれば小型鉄道模型に使うような精密部品を鋳造することができる。



手始めに、蒸機の細密部品としてよく引き合いに出される「砂まき器」を選択した。砂まき器は、砂箱の配管の根元に設置されている、エアで砂を押し出すための装置で、蛇口のような形をしている。5インチのサイズだと全長は約20mmになる。5インチ用の砂まき器は動輪舎からロストパーツが売られており、事によるとそれを買う方が安上がりだが、敢えて自作を試みる。



砂箱はオイルタンクとして使用するので、砂まき器にオイルを通して配管を接続しなければならない。砂まき器のフランジと出口からそれぞれ穴を掘り、途中を斜めに短絡するトンネルも掘る。トンネルの入り口はプラグで塞ぐ。



ロストワックスのプロセスを簡単に説明すると、ワックス型を石膏で固め、ワックスを熱で溶かして石膏に空隙を作り、そこに溶かした金属を流し込んで凝固させ、石膏を破壊して製品を取り出すという手順になる。ロストワックスの鋳造は上野の「シーフォース」というショップに依頼した。ワックス持ち込みで鋳造を依頼できる。材料となるモデリングワックスもここで入手した。



モデラは一方向からの加工しかできないので、砂まき器を左右半分ずつ加工することにした。ワックスを直方体に切り出して、両面テープでステージに固定し、まず上半分(完成後の左側)を加工する。



加工した側を下にして固定するため、ケミカルウッドで固定台を削り出し、ここにさきほどの半加工ワックスを両面テープで固定し、反対側を削り出す。




モデラでの切削が終わった状態。ここから穴開けが必要だが、この状態でまずショップに持ち込み、穴開けして鋳造できるかどうか確認してもらった。その結果、穴を貫通してしまうと石膏が崩れる可能性があり、穴の直径程度の深さであれば大丈夫とのことだったので、穴の深さは直径までとして、鋳造後にドリルで追加工することにした。



ケミカルウッドで、ワックス型に穴を開けるための治具を作成した。写真の治具を両面用意した。これもモデラで削り出し。




ワックス型を治具で挟んでバイスにセットし、治具の穴を基準にして、ドリルでワックス型に穴を開ける。治具の穴が開いている面は、穴に対して垂直になっており、ここをバイスの上面に合わせることで、穴の角度を合わせている。



この状態でまず1個を鋳造してもらった。ワックス型を忠実に再現した形状に仕上がっている。表面は鋳造後に研磨されている。側面のコブは、真鍮を流し込む湯道の跡で、削り落として仕上げる。



予備を含めて追加で6個、鋳造依頼した。ワックス型は必要数だけ用意しなければならない。作業効率を上げるため、モデラで6個同時に加工をした。ロストワックスで部品を量産する場合、まず原型を作り、ゴム型を介してワックス型を作る方法が一般的であるが、6個程度であればモデラで必要数を削り出す方が効率的である。



追加鋳造品はなぜかフランジの裏にも湯道が追加されていた。ここも含めて、湯道のコブを糸鋸で切り落とし、ヤスリで仕上げる。写真左が仕上げ前で、右が仕上げ後。



蛇口の先端には、配管を接続するための雄ネジを切らなければならないが、砂まき器の本体が邪魔でダイスを入れることができないので、旋盤でネジを切った。本体と干渉しないような雄ネジ切りバイトを自作し、砂まき器を四爪チャックしてネジを切った。




私のマイフォードは、クイック・チェンジ・ギアボックスではなく手でギアを組み替えるタイプだが、オプションのギア1個を追加すれば、メトリックのネジを切るセットアップにすることができる。それが写真のギア(歯数21)である。英国から通販で入手した。



ネジを切ったロストワックスに追加で穴を掘る。ワックスの穴開けに用いた治具を再利用した。ダミーボルトとプラグをねじ込むためのタップ立ても実施する。



真鍮丸棒から、ダミーボルトに入れるワッシャを作成した。ドリルで穴を開けて筒状に加工し、帯鋸刃から作った突っ切りバイトで突っ切って量産した。



ダミーボルト(動輪舎)とワッシャを取り付け、クロス穴はセットビスで塞ぎ、フランジに取り付け穴を開けて完成。接続用のフェルールと袋ナットも作製した。



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