目次 / 次月

2010年11月 「短期プロジェクト」


C53は、完成まであと10年くらいかかるだろう。その間、3.5インチのウイリアムだけで幾多の運転会を乗り切るのは、忍びがたいものがある。C53が完成しても、今度は逆に大きすぎて、気軽に運転会に持ち込めるものではない。ここはひとつ、手軽に扱えてパワーもそこそこある5インチ機が欲しい。しかし、そのためにC53の工期を大きく遅らせたくはない。せいぜい2年程度で完成できるものがいい。構想を練った結果、以下のような前提に落ち着いた。

・ プロトタイプはB型の軽便機関車とする
・ 完成重量80kgくらいのスケールにする
・ 細かい形状の再現はやめ、構造を可能な限り単純化する
・ C53と同様、鋳物とレーザ加工を多用して工期を短縮する
・ ボイラーは英国に外注する
・ フィッティング部品などは、OS製品を購入する


プロトタイプは、英国ハンスレットB型軽便機関車を選んだ。ハンスレットは、サドルタンクに外側フレームというのが特徴で、日本でよく見かけるコッペルタイプの軽便とはかなり雰囲気が違う。動輪はフレーム内に隠れているが、サイドロッドとメインロッドは露出している。弁装置はスチブンソン式で台枠内部にある。左右のシリンダーブロックは台枠を貫通して、スライドバルブの蒸気室が台枠内部にある。作りにくそうに思えるが、弁装置はおろか、動輪の外観も気にする必要がなく、機能優先で好きなように設計できる。貫通シリンダーはメンテ性が悪いが、工作そのものは考えるほど面倒ではない。

ハンスレットは輸出用も含めてさまざまな軌間のものがあり、ファインスケールを保ったまま、スケールを自由に選ぶことができる。英国からハンスレットに関する書籍を購入し、その中の図面から、サイズが手ごろなアリス・クラスを選んだ。578mm軌間で、1/4.5スケールとなる。部品の寸法は、実機の図面と写真から起こした。ハンスレットといえばキャブ屋根なしタイプが一般的だが、それだと半完成だと思われそうなので、屋根付きで近年レストアされた"Maid Marian"をプロトタイプに選んだ。5インチのハンスレットとしては、有名なDon Youngの設計があり、ボイラーの設計だけは、これを参考にした。


工作ができなかった海外出張中、ホテルでずっと設計をしていた。4ヶ月間の出張で、設計はほぼ完了した。設計に使用したのは、Alibre Designという、比較的安価な3D-CADソフト。高価なプロ用のソフトと比較すると、それなりの性能である。ライブスチームの設計に限れば、無理して3D-CADなど使わなくて良いのだが、木型をモデラで削ろうとすると、3D-CADは必須となる。


弁装置はスチブンソン式である。「図解ライブスチーム」を参考にして設計した。各部にレーザ加工品を多用する。逆転機は、OS完成品をそのまま利用する。



動力装置の横配置は図のようになる。車輪は主台枠の内部にあるが、車軸が外に延長されてその先端にロッド用のクランクが付いている。弁装置は車輪のさらに内側に配置されている。ちなみにCAD図の色分けは、灰色が鋼材(ステンレスを含む)、黄色が真鍮、黄土色が砲金、肌色が銅、そして青色はOS部品を示している。



シリンダーブロックは外側が気筒、内側が蒸気室となる。バルブはスライドバルブで、蒸気の力で側壁に押し付けられて気密を保っている。ピストン軸とバルブ軸がかなり離れているため、シリンダーブロックは横長い形状になってしまう。これは実機も同様。シリンダーの間の縦棒は、軸動ポンプ駆動用のロッドである。



キャブの操作系は、加減弁を除いて、すべてOSの完成部品を使用する。先に部品だけ取り寄せ、必要な採寸をして3D化し、本体の3Dに組み込んだ。加減弁は実機のようなスライド式ではなく、構造が単純なネジ式にした。蒸気ドーム・安全弁はキャブ内部にあり、安全弁の先端に筒が付いていて、蒸気を天井に逃がすようになっている。これは実機にならった構造である。


ボイラーはDon Youngの5"Hunsletの設計を参考にして、全体の形状、板厚、ステイ本数を決めた。過熱管を付ける予定はないので、大煙管は設けていない。寸法は基本的にメトリックだが、英国に発注することを考えて、材料の一部(焚口サイズなど)を英国規格で設計した。


工作はC53と並行して進めるつもりだが、やり始めるとこちらに集中しそうな予感がする。


目次 / 次月