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2012年10月 「台湾ライブスチーム」
台湾にもライブスチームが走っていました。まごうことなき本物。しかも全自作です!
台湾赴任の直前に、関東の星野氏、井上氏から、(台湾で唯一と思われる)本格ライブスチーマーである游文進さんを紹介していただき、渡航後、早速コンタクトを取った。游さんは台湾の新北市にお住まいで、故 高井貢氏と井上氏の教えを受け、D51型の製作を開始し、6年の歳月をかけて、2005年に同時に2輌を完成させた。そのうち1輌は、DT688という台湾仕様のD51である。
游さんは、休日にミニ鉄道の営業運転をしている。ホームグラウンドは
旧山線の勝興駅というところ。旧山線は一度廃線になった路線だが、今は休日に一日一往復の観光列車を走らせている(時々、本物の蒸機も走る)。勝興駅はその途中駅で、今は観光地として賑わっている。ここで毎週末に電動ライブの運転をしており、時々ライブスチームも走らせている。
初日は電動ライブのみ見学。游さんはとても気さくな方で、不慣れな日本語でとても親切に対応してくださった。日本には何度も訪れており、福知山のミニSLフェスタにも参加したことがあるらしい。
列車は、両端に機関車を連結したプッシュプル式で、さらに列車中央に運転台を兼ねた動力車があり、電車と同じ動力分散方式となっている。そのため車輌は、大人ひとりで楽に持ち運べる軽さで、列車全体で最大20名ほどの運客ができる。游さんは多いときで一日千人以上の運客をこなしているらしい。運転には、游さんのご家族が協力していた。
使用されてない実物軌道の間に、ライブの軌道が設置されており、軌道は実物同様に平坦である。ローカル線なので、それでも勾配はきついらしい。
機関車はご覧のような端正な作り。側板のラジエータグリルは、金型プレスで形成しているらしい。
以下は、桃園県の味全埔心農場というところでのイベント運転。ここで初めてDT688を拝んだ。
台鉄は日本と同じ1067mm軌道であり、5インチ機の縮尺も日本と同じ8.4分の1となる。日本のD51との外観上の違いは、デフレクターの白のライニング、カウキャチャーの設置などである。この機関車の重量は、本体だけで約230kg、シリンダー径は65mmらしい。下回りは、実用性を考えて多少デフォルメされている。
実物の動態保存機はDT688ではなくDT668である。意図的に微妙に番号を変えている様子。そういえば台鉄の社章の形も微妙に違う。
上まわりのディテール工作もぬかりはない。作用管まできれいに再現されている。グロスの塗装が美しい。「架線注意」の表示はご愛嬌?
焚口戸は実機と同じバタフライ式を採用。加減弁がレバー式で逆転機がハンドル式、これも実機を再現している。
クロスヘッド、バルブギアも、ご覧のとおり、しっかり作り込まれている。ギアの接続から、弁装置がスライドバルブ式であることがわかる。
石炭は4種類を併用していた。台湾製の石炭は質が悪いとのことで、煙を出すために使用していると。日本の太平洋炭と同じ扱いである。
設置されていた軌道は、エンドレスではなく、短絡線を含むΩ型の往復線で、SL1輌とEL牽引の2列車で、以下のような凝った運用をしていた。与えられた敷地で効率的な運用ということで考えたらしい。
(1) SL牽引の1列車が始発駅(右手)を出発
(2) 待避線にいた空の列車が、EL牽引で始発駅に戻る
(3) SL列車は終点でSLを切り離し、乗客は向きを変え、EL牽引で復路走行
(4) その間にSLは短絡線を通って始発駅に戻り、空の列車に連結し、次の客を乗せて待機
(5) ELの復路列車は、始発駅直前で待避線にバックで入り、降客 → (1)にもどる
こうすることで、SL運転継続のための整備時間を確保していた。
軌道は平鋼にプレス製の枕木を固定したもので、これも自作品。サビ防止のため黒く塗装されている。電着塗装とのこと。金属加工のすべてを網羅しているが、機械の専門家というわけではなく、プレス加工の経験があるだけらしい。その他の加工技術は、ライブのためにマスターしたらしい。
連結器は日本のメーカー品を参考にしてロストワックスで量産したもの。これも游さんのオリジナルである。
ここが始発駅。日没まで、乗車を待つ客の列が絶えなかった。「蒸気小火車」というのがミニSLのことである。中国語では、「火車(ホーチャ)」が汽車で、「汽車(チーチャ)」は自動車を指す。
営業終了まで運転を見学し、最後は少し運転させてもらった。振動がなく動きがスムーズで、ブラストのリズムも正確であり、正確な工作と弁調整がうかがえた。
というわけで、台湾に来て、思いもかけない大収穫であった。いずれ工作室も見学させてもらおうと思っている。
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