2000年1月 「ステイと底枠」
【ステイ】
ボイラーを耐圧構造にするために、内外火室を多数の控(ステイ)で接続する。
ステイの取り付けは、ボイラー組立の中でも厄介なもののひとつ。
とにかく数が多い。
シンプルが売りのWILLIAMですら60本もある(英国設計が特に多い)。
参考書などを見ると、高温ハンダでコーキングする方法なども紹介されているが、
一度ハンダを流したボイラーは二度と銀ロウ付けはできないという制約があるので、
銀ロウ付けで組むことにする。
ステイは接合面積が小さいわりに、大きな力が掛かる部分であり、
銀ロウ付けする場合でも、機械的固定で強度を確保しておく方が良い。
ステイとボイラーにネジを切り、ステイをねじ込んでさらに先端をナットで固定する。
まずはステイとなるM4皿ネジの用意。
材質は銅でも良いが、リン青銅の方が強度があるしネジも切りやすい。
市販品が見つからなかったので、φ6のリン青銅丸棒から作ったが、
60個のネジを作るのは、根気のいる仕事である。
頭には1mm厚のメタルソーでスリ割りを入れた。
さらに銀ロウが流れやすくなるように、モーターツール用のメタルソーで、
ネジ側面に0.1mm幅の切り込みを入れた。
これらのスリ割りを効率よく行うため、それぞれ治具を作製した(写真)。
WILLIAMのような狭火室の場合、2枚の後板を先に付けてしまうと、
ステイ内側の銀ロウ付けが困難になるので、後まわしにする。
サイドステイの組み込みは、以下の手順で行った。
(1)内外ボイラーを組み合わせ、2枚の後板、
底枠などを全て仮組みして、隙間がないように調整。
(2)ミニフライス盤のドリルが外火室と垂直になるように
ボイラーの角度を調整して固定(写真)。
(3)ポンチ穴をガイドにして、φ2の下穴を開け、φ3.4に拡大。
(M4の下穴はφ3.3だが、銅はタップを立てにくいので太めにした)
(4)上から2段目(内外火室の角度差が大きい)を除き、
そのまま内火室にφ3.4穴を移し開ける。
(5)上から2段目は、ドリルが内火室と垂直になるように固定しなおし、
φ3.4穴を内火室に移し開ける。
(6)皿モミカッターで、穴の外側に皿ネジを受ける皿モミを入れる。
(あまり深く入れるとボイラー強度が落ちるので注意)
(7)M4のドリルタップ(写真の左から4番目)を用いて、
内外下穴にまとめてタップを立てる。
(先端のドリル部で内外ラインを合わせる〜ドリルとして使うわけではない)
(8)タップを立てたら、直ちにサイドステイをねじ込む。
(あとでまとめてねじ込もうとしても内外ネジ穴の位相がずれて入らない)
(9)火室内部の突き出しが2.5mmになるように、
ステイを切断して、再びねじ込む。
以上の作業を左右の全サイドステイについて行ったあとで、
2枚の後板、底枠を外し、切り粉を除去する。
フロントステイの組み込みも同じ手順だが、
こちらは缶銅とフライス盤のヘッドが干渉するので、
鋼丸棒で延長ロッドを作って、穴開け、タップ立てを行う。
写真のように大がかりなセットアップになった。
フライス盤の転倒防止のため、
重石がわりにステージに大型万力を載せた。
銅への穴開け、タップ立ては、潤滑油を使うと楽だが、
ステイをねじこむと洗浄ができないので、オイルレスで加工した。
タップ立ては、エチルアルコールで潤滑しながら慎重に行った。
ボイラー参考書によると、潤滑剤としてはパラフィン
(ろうそくの原料)が良いとある。
いったん酸洗浄し、まず左側のステイの銀ロウ付け準備をする。
通常は外火室外側および内火室内側から銀ロウを流すのだが、
銀ロウをしみ込ませるため、内外火室間に銀ロウを置く方法を考えた。
(1)全ての煙管の根元に石綿のひもを詰め、火室内部で先端を拡げて煙管全体を隠す(写真)。
(2)左側の全ステイを2.5mmだけ緩める。
(3)自作の注射器を用いて、内外ボイラーの間の各ステイの根元に、フラックスを塗る。
(4)外ボイラーの外に出た部分にもフラックスを筆塗りし、再びステイをねじ込む。
(5)フラックスを塗った真鍮M4ナット(厚さ3.2mm)を、火室内側からねじ込む。
(6)φ1の銀ロウをU字に曲げたものを、全ステイの内外ボイラーの間に引っかける。
ピンセットでは無理で、自作の治具を用いた。
(7)φ1の銀ロウを輪にしたものを、全ステイの頭(外側)の部分に置く。
セットアップに用いた治具。上から、
1. フラックスを塗る注射器
2. 銀ロウ位置を調整する棒
3. U字の銀ロウをひっかける治具
4. 内外火室間に置く、U字の銀ロウ
5. 外火室の外に置く、銀ロウの輪
続いて銀ロウ付け。ここで右側の排水ブッシュも同時に銀ロウ付けした。
(1)左を上に、後を手前にして置き、耐火レンガで囲って保温する。
(2)最大火口のバーナーでボイラー後半全体を加熱。
(3)ボイラーが赤みがかったところで(約5分)、炎を外火室上方に移動し、
外に置いた銀ロウから溶かしていく。
(4)炎を火室内部に入れ、内火室全体を加熱して、内側のロウを溶かす。
時々火を止めて、懐中電灯で隙間を照らして確認する。
反対側のステイ25本およびフロントステイ4本も同じ手順で銀ロウ付けする。
直前の銀ロウ付け時の加熱によりステイ表面が酸化するので、
いずれもステイを半分緩めた状態で充分に酸洗浄してから銀ロウ付けする。
さて、上記の方法でうまくいったかどうかだが、
裏の銀ロウが表まで回ってない部分が、全体の4分の1ほど出てきた。
特に二回目以降、つまり一度加熱してステイ表面が酸化してしまった場合ほど比率が高い。
銀ロウ付け中に確認したのだが、回るところは溶けると同時にさっと回り、
回らないところはいくら加熱しても回らない。
どうやら0.1mmのスリ割りがクリティカルで、微妙なところで回ったり回らなかったりするらしい。
0.3mmくらいの溝を作っておけば、ちゃんと回ってくれるのか。
しかしあまり溝が広いと、ここから水が漏れる可能性も出てくる。
ちゃんと回らなかった部分には、底枠の銀ロウ付け時に、
追加で銀ロウを流すことにした。
【内火室後板の銀ロウ付け】
内火室後板にフラックスを塗って、内火室に入れ、
内側からM2真鍮ビスを通し、外側をナットで締めるのだが、
指を入れるスペースがないので簡単にはいかない。
ピンセットでナットをネジの上に置き、薄板で上を押さえながら、
ピンセットの先でナットを回してねじ込み、最後はスパナで締める。
後ろを上にして置き、接合部周辺に銀ロウを並べ、
火室内部から加熱して溶かす(写真)。
内火室のみの加熱で良いので、銀ロウ付けは比較的簡単である。
【バックステイ】
内外火室の後板どうしをつなぐバックステイは、6本ある。
外火室後板をボイラーに仮組みし、
外火室後板の穴を内火室に移し開ける(写真)。
内火室側はM4のネジを切り、
外火室側はそのままφ4に拡大する。
ここまでは、サイドステイを組み付けた段階でやっておいた。
ステイそのものはリン青銅から作ったスタッドである。
内火室後板にねじ込み、内側をナットで締めて、銀ロウ付けしておく。
【底枠の銀ロウ付け】
まず前と左右との3枚の底枠を銀ロウ付けする。
ステイに続き、底枠も裏から表に銀ロウを流すことを考えた。
底枠は、銀ロウが流れやすいように、
これでもかと大きく面取りしておく(C>1mm)。
裏から回らなかった場合に表からも流すので、裏表とも面取りした。
底枠を入れる前に、φ1の銀ロウをコの字に曲げたものを内外2本入れる。
底枠は接合面にフラックスを塗り、内外火室を貫通するリベットで固定する。
隙間のある部分には、0.2mm厚の銅板を三角に切ってたたき込んでおく。
火室を下にして、コの字の銀ロウを落ち着かせる。
リベットの頭および、サイドステイの不完全部には、
フラックスで練った銀ロウを塗っておく。
排水ブッシュ内に銀ロウが回らないように、石綿のひもを詰める。
ステイ付けの時と同様、煙管と管板も石綿で保護する。
耐火レンガで保温して、最大火口で加熱開始。
ところが、ボイラーが黒変しはじめたあたりで火力が落ちてきてガス切れ!
やむなくそのまま冷まして洗浄したが、銀ロウは全く溶けていない。
底枠はすでにリベットで固定しているので、
接合面の再洗浄、フラックス塗りもできない。
余裕を見て8kgボンベ(写真)を使っていたのだが、これでも不足だった。
ボンベは1本しかないので、充てんしてもらうまで作業中断となった。
(体重計などで、ちゃんと残量管理すべきだった)
ボンベが入荷したところで、作業続行。
再び洗浄し、ステイで使った注射器を用いて、
中にフラックスをたっぷりと塗り、加熱開始。
まずボイラー後半全体を銀ロウ付け温度の手前(フラックスが透明になる温度)まで加熱し、
炎を底枠に集中させる。
奥の方の銀ロウは見えないので、奥から加熱して、手前の銀ロウが溶けるのを待つ。
やがて底枠付近が赤くなり、銀ロウが完全に溶けたところで加熱終了。
この間、約7分であった。
洗浄して検査すると、表まで銀ロウが回ってない部分がある。
また、フラックスで練って塗りつけておいたロウが、
加熱でメッシュ状に散らばってしまい、隙間を塞いでくれていない。
ここの修復はあとまわしにし、忘れないようマジックで印を付けておく。
【おまけ】
写真左は、耐熱手袋(井内盛栄堂)。袖まで隠れる長いものである。
瞬間的に700度までの高温に耐えられるので、
銀ロウ付け中の火口の交換、耐火レンガの移動ができる。
加熱物の取りまわしも、短時間であればできる。
ヤットコ、プライヤーと違って、加熱物を変形させる心配がない。
写真右はアスベストヤーン(石綿のヨリヒモ)。
今回、煙管保護に用いたが、
石綿は発癌性が高いうえ、「アスベスト肺」という病気をひきおこすので、
欧米では販売が禁止または制限されているが、
日本ではまだ堂々と売られている。
作業時には繊維を吸い込まないようにマスクをし、作業後は手をよく洗う。
比較的安全な代替え品としては、グラファイトヤーンがある。
(終)