1999年12月 「失敗また失敗」
先月までは、自分でも驚くぐらいに順調にことが運んだが、
どうやら運を使い果たしたらしく、今月は相次ぐトラブルに悩まされた。
今回はほとんど失敗とその対策の紹介になる点をお許し願いたい。
いずれも気が動転していたため、写真はあまり残っていない。
【失敗1 〜 内ボイラー変形】
内外ボイラーは、ここで火室すそ丈を寸法どおりに仕上げる。
外ボイラーのすそを削り(写真)、
続いて内ボイラーの左右のすそを削って、万力から外そうとした時、
手がすべって内ボイラーを床に落としてしまった!
1メートルの落差で、火室左側面が変形し、大煙管も先端が変形している。
煙管はテーパー状の丸棒でわりと簡単に修正できたが、問題は火室。
変形した部分を修正して内火室後板を入れてみたが、
再び隙間だらけになっている。
変形のためネジ穴位置もずれてしまっている。
内火室後板を入れ、変形してない側のみネジで固定して上から板金していき、
ひとつの穴位置がだいたい合ったら、ネジで固定し、次の穴に向かって板金を続ける。
すそまでたどりついた時点で、やはりネジ穴は完全には合わず、ドリルの刃先で穴を拡大して固定した。
すそ丈は結局片側だけ0.2mmほど短くなった。
教訓:
機関車の部品の中でも、特に銅ボイラーは、重たくて柔らかく、
落とすと変形はまぬがれない。
まだ組立中だったので板金で修復できたが、
完成後に落として変形したら、二度と元には戻せない。
ボイラーは、くれぐれも慎重に扱うべきである。
【失敗2 〜 安全弁ブッシュ穴の芯ずれ】
安全弁を垂直に立てることを考慮して、安全弁ブッシュの穴開けはあとまわしにしていた。
しかしここの下穴のφ9は、ミニフライス盤のドリルチャックでは開けられない大きさである。
そこで仕方なくボール盤を用いたのだが、これが間違いのもとだった。
最初にφ4の穴を開けて徐々に拡大していったのだが、
φ6あたりから振動がひどくなり、φ8でついに噛みこみが発生。
穴はガタガタで、しかもセンターからずれてしまっている。
ずれ量は約0.3mmであり、言わなければ気付かない程度の量だが、
納得できないので、何とか修正を試みた。
エンドミルで修正するとして、問題はボイラーの固定である。
柔らかい上に、つかむ場所もないので、エンドミルの振動でばたついて、
傷だらけになるのがオチである。
そこでブッシュを用いてエンドミルを導くことを考えた。
あいにくφ9エンドミルは持ってないので、
φ8エンドミルを偏心させてφ9の穴を開ける。
まずφ8エンドミルにかぶせる外径13の筒を作る。
それとは別に内径φ13の筒を作り、これの反対側には、
ブッシュがしっくり入る穴を、0.5mmだけ偏心させて開ける。
これをブッシュに固定し、エンドミルを降ろせば、
エンドミルはブッシュ中心から0.5mmだけずれた位置に導かれる。
下の筒の方向を変えれば、偏心の方向が変わるので、
最終的にはブッシュと同心のφ9穴が開くことになる。
加工に先立ち、ボイラーを少しでもリジッドにステージに固定するために、
排気口ブッシュを利用してステージにネジ止めする治具(写真)を作製した。
これらの治具を用いて、下の筒を45度きざみでずらしながら穴掘りを繰り返す。
最終的にはφ9のドリルを貫通させたのだが、
ボール盤は二度と使いたくなかったので、
φ10銅管(肉厚0.5mm)を短く切って、縦にスリ割りを入れ、
これにφ9ドリルを挿入して、
ミニフライス盤のφ10コレットでチャックした。
最初からこの方法でやっていれば良かったのだが....
教訓:
ブッシュ類は、旋盤加工の段階で穴開けを終わらせてしまうべきである。
ロウ付け後の加工は、ねじ切りのみにする。
【失敗3 〜 安全弁ブッシュ位置の間違い】
これは今月発生したミスではなく、今月「発見」したミスである。
安全弁修正用治具を作製していた際、2本の安全弁ブッシュの位置が、
本来の位置より8mmだけ前にずれていることを発見!
CADでの寸法線の引き方に不備があったことが原因である。
これはもう修復不可能であり、このまま進めるしかない。
デザインが少し変わる以外に実害はないと思うが....
【失敗4 〜 煙管先端の焼損】
これが今回の最大の失敗である。
煙室管板と煙管とはユルミバメなので、
銀ロウ付けする前に煙管の先端を拡げて隙間を小さくする。
そのためには、あらかじめ煙管先端を焼きなましておく必要がある。
内ボイラーを立て、小口のバーナーで煙管先端を加熱する。
赤くなるまで加熱するのだが、
大煙管の色に気を取られているうちに、
大煙管に囲まれた小煙管の1本がオレンジ色にまで加熱し、
先端が溶け始めている!
あわてて火を止めて冷まし、確認したが、
内外とも表面が溶けて、肉厚が減っている。
先端のテーパー部分は半分くらい溶けて無くなっている。
さらに融点から急冷されたためか、表面にヒビが入っている。
銅がこんなに簡単に溶けるとは思わなかった!
何とか使えないかと、表面に銀ロウを流して補強してみた(写真)。
しかし肉厚が減り、表面にヒビまで入っているとなると、安全上好ましくない。
何よりも、ここまで苦労して作ってきたものに、
後々ついてまわる欠陥を認めることは、あまりにも気分が悪く、
思い切って煙管を交換することにした。
問題は、どうやって古い煙管を切り離すかである。
銀ロウ付け接合部の銀ロウは、母材との溶融により融点が上がるので、
再び銀ロウ付け温度まで加熱しても溶けることがない。
ヘタをすると、他の部分まで焼損することになりかねない。
さらにここは固いはめ合いのもとに銀ロウ付けされており、
たとえ銀ロウが溶けても、簡単には抜けないだろう。
そこで、火室内から煙管の穴をドリルで拡げていき、
煙管外径にまで穴を拡大して、煙管を切り離すことにした。
位置決めを確実にやるために旋盤を用いた。
煙管内径の太さに削った丸棒を煙管に通し、
その先端を心押し台のドリルチャックで保持し、主軸側にはドリルを三爪チャックし、
両者を突き合わせて、問題の煙管を旋盤の主軸ラインに合わせる。
そのままブロック材を用いて火室管板の下部を横送りテーブルに固定する。
さらにテーブルの反対側に角棒を立て、
それで火室管板の上部をサポートする。
ドリルを低速で回転させ、心押しは動かさずに、
テーブルつまり内ボイラーのみを慎重に前進させる。
問題の煙管は外径12mm、内径10mmだが、
万が一にも食い込みなどがあってはいけないので、
φ10.5ドリルからスタートして、0.5mmきざみにφ12まで拡大した。
φ11.5を貫通した時点で、煙管根もとの上部分の壁が破れた。
φ12を貫通しても、煙管根もとの下部分は皮一枚でつながっている。
つまり、穴はやや上にずれて貫通したことになる。
そのまま旋盤から外し、煙管をひねって切り離す。
内外に残ったバリは、ヤットコでむしり取ってから、
モーターツールで仕上げる(写真)。
続いて、この穴に入るように新たに煙管を作り、銀ロウ付けするのだが、
先端のサポートのための煙室管板は、
すでに外ボイラーに付けてしまっているので、
銅板に穴を開けたもので、奥の煙管1本との位置決めだけをやる。
他の煙管の根もとには石綿のヒモを詰めて、過熱を防止する。
銀ロウ付けのセットアップは、最初に煙管を付けた時と同じ。
教訓:
銅の融点は1100℃程度であり、赤熱温度は700℃くらいなので、
火力を加減しないと溶けるのは当然である。
特に煙管のように薄肉で熱が逃げにくいものは、簡単にオーバーヒートしてしまう。
【ブッシュ追加】
ようやく通常の工作に戻る。
使い勝手を考えて、ボイラーを一部設計変更した。まず注水口。
オリジナルでは、運転前のボイラーへの注水は、
安全弁を外して行うようになっている。
しかし微妙な調整を要する安全弁を毎回はずすのは何となく嫌だし、
紛失したら作り直すのも大変である。
OSのロコなどにはちゃんと注水口が付いている。
そこで、蒸気ドームの後ろに、ダミーの砂箱を設け、
この中に注水用プラグを設けることにした。
流速をかせぐために、プラグの径は12mmにし、Oリングシールとした。
このためにブッシュの追加が必要となる。
砲金の材料がなかったので、φ30の真鍮丸棒から削り出した。
完成した外ボイラーに、また大穴を開けないといけない。
蒸気ドームの穴開けに用いた方法だと手間がかかるので、
ズボラをしてホールソーで開けた(写真)。
もうひとつ、逆止弁も設計変更した。
オリジナルでは外火室後板に取り付けるようになっており、
実際、そのためのブッシュも付けた。
しかし水温の高い火室付近に冷水を入れると、蒸気発生を阻害するので、
実車では煙室に近い位置から入れるようになっている。
それに煙室のすぐ後ろの空間が何となく寂しく、
何かアクセントが欲しかったということもあり、
ここに逆止弁の給水口を移設することにした。
平岡幸三氏の本の設計を参考に、スタッドを付けた。
リン青銅から作ったφ8の円筒の外周にネジを切り、
ボイラー左右側面にネジ穴を開けてねじ込み、銀ロウ付けする。
不要になったブッシュにはプラグを入れてメクラとし、新たな用途を待つ。
【煙室管板の銀ロウ付け】
外ボイラーに内ボイラーを入れ、
煙室管板を缶胴に入れると同時に煙管にも通し、
煙室管板、缶胴、煙管の三者を同時に銀ロウ付けするというのが通常の手順。
しかしstep by stepで進めるため、
先に煙室管板だけを缶胴に付けることにした。
ただしこの手順を取る場合、
あとで後ろから内ボイラーの煙管を挿入できることを確認しておく必要あり。
煙室管板は、4カ所を缶胴にリベット止めまたは真鍮ビス固定する。
内火室管板の銀ロウ付けで用いた銅板を再び用いて、焼損防止をした(写真)。
加熱は缶胴側面から初め、缶胴が赤みがかったところで、
火を煙室管板に回すと、ほどなく全体が赤くなって銀ロウが流れる。
ここの銀ロウ付けをやったあとで、煙管焼損事故が発生した。
【底枠】
底枠は、内外火室のすその隙間を埋める、ワク状の部品である。
前後左右で4枚の板を組み合わせて作る。厚さは6.4mmと厚い。
9mm厚の銅の廃材から切り出した。
フランジプレートのせいで、底枠はややこしい形になる。
左の図がもともとの形で、点線部分が底枠だが、
これだと赤で塗りつぶした部分に隙間が残る。
通常は、銅線を詰めて塞いだりするが、
右の図のように内火室板を加工して逃げた。
加工は底枠が当たる部分のみでよく、ミニフライス盤で行った(写真)。
火室部品は正確に図面どおりに仕上がってないので、
底枠は現物合わせで作る。
ボイラーを仮組みし、底枠寸法を計り取り、改めて図面を引く。
まず前後の底枠の加工だが、矩形に仕上げてからエンドミル加工する。
後部は、φ8のエンドミルのRを転写するので、ミニフライス盤ではなく、
旋盤+バーティカルスライダーを用いて加工した。
一部加工に失敗して角を削りすぎてしまったので、
そちらを裏側にして誤魔化した。
つづいて左右の底枠を作製する。
火室の底には左右に排水口が来るが、
水が残らないように、排水口は底枠に埋め込んだ状態で取り付ける。
そのため、左右の底枠には排水口ブッシュを逃げる半円の切り欠きが必要である。
まず外ボイラー単独で、ブッシュ取り付け穴を開け、ブッシュ本体も作製しておく。
次に左右底枠を矩形の状態まで仕上げておくが、設計の6.4mm厚ではなく、8mm厚に仕上げる。
ここで、ボイラーの穴と同じ径のポンチを自作し、ボイラーに底枠を入れてクランプした状態で、
ポンチを入れて打ち、底枠に、ブッシュ穴の中心をマークする。
中心位置は底から6.8mmであり、底枠厚さを8mmに仕上げたのはこのためである。
バーティカルスライダーに底枠をチャックし、マークを主軸中心に合わせ、
ブッシュの深さまで、エンドミルで座繰りを入れる。
φ11の座繰りが必要だが、φ10のエンドミルしか持ってないので、
上下左右に0.5mmずつ動かして、穴を拡大する。
さらにその先に、水を受けるためのφ8の穴を掘った。
穴加工が終わったら、厚さを設計どおりの6.4mmまで削ってできあがり。
底枠が揃ったところで仮固定するが、まず排水口ブッシュを入れ、
ブッシュに当たる位置まで底枠を挿入して、
固定穴をボイラー外部から写し開けて、ビス&ナットで仮固定する。
【水面計ブッシュ】
ややこしい形だが、REEVES鋳物があり、これを機械加工する。
加工手順は省略するが、加工を簡単にするため、
最初に穴を貫通してしまって、
全部の加工が終わってから、底を作って銀ロウ付けで塞いだ。
ボイラーに接する底面は、ロータリーテーブルを用いてフライス加工する。
ボイラー上に位置決めしたら、
忘れないうちにボイラーにも貫通穴を開けておく。
以上で、ボイラー主要部品はひととおり揃ったことになる。
次は問題のステイである。
ところで、今のペースでページを追加していくと、
完成までHP容量(上限10MB)が持たないことが判明した。
先のことはとりあえず考えないことにする。
(終)