2003年10月 「安全弁・給水槽」


【安全弁】

図に示した安全弁のデザインは、設計図のオリジナルではない。英国Gordon Smith氏が近年、Engineering In Miniature誌に発表して話題となった、Mild Pop Safety Valveからデザインをいただいている。従来の安全弁との違いをあげると、次のようになる。

  1. スプリングがかなり弱く、ブローアウト時に弁座が高く上がるので、蒸気解放量が大きい。
  2. スプリング調整ねじの形状に工夫をこらし、スプリングで蒸気解放穴がふさがれないようになっている。
  3. ブローアウト時の弁座上限リミットがあり、開閉動作が一律で安定している。
  4. 構造が簡単で作りやすく、小型化しても大型のものと同様の性能が得られる。
  5. 動作音がたいへん静かである(通常のPOP安全弁の騒音は相当なもの)。

設計者はリクエストに応じて各サイズ図面を提供しており、さらには専用スプリングもまとめ買いして供給している。私もメールでコンタクトしていろいろアドバイスを頂いた。
日本ではあまり聞かないことだが、英国の一部のクラブでは、ブロアーを使ってボイラーを最大出力で運転したとき、ボイラー圧力が常用圧力の110%を越えてはならないという条件を付けているところがある。実際にWilliamの安全弁でテストをしたStuart Hardy氏の報告によれば、オリジナル設計の安全弁ではこの基準を満たさず、Mild Pop安全弁であれば満たすという。


安全弁弁座加工
安全弁本体は、真鍮六角棒から作った。まずボイラーへのねじ込み側を加工し、ヤトイにねじ込んで反対側を加工する。弁座はこれもDバイトで仕上げた。なお、この手のヤトイはコレットチャック専用に作っておけば、何度使っても正確に心を出すことができる。各種ネジサイズのものを揃えておくと大変に重宝する。


ステムの加工
安全弁のステムも真鍮製。細長いので、心押しでサポートして加工した。ただしセンターによる心押しではなく、先端に穴を開けた真鍮丸棒による保持である。


安全弁部品
安全弁の構成部品(左)と、組み立てた状態(右)。スプリングはステンレス製でこれも自分で巻いた。頂部のリングはロックナットで、リン青銅製のスプリング調整ねじを固定するためのものである。



エアテスト
手持ちのコンプレッサーでスプリングの仮調整を行った。コンプレッサーの圧力計が0.6MPaで静止するように調整した。エアと蒸気では解放圧力が異なるので、最終的にはボイラーに取り付けて実際に蒸気上げをして調整する必要がある。



【給水槽】

運転席後部のデザインを決めるにあたって、以下の点を考慮した。

●投炭のじゃまになるので、後部水タンクおよび炭庫は設けない。
●軸重の前後バランスを取るため、最後尾に2kg以上のデッドウェイトを積む。
●ハンドポンプは力がかかる部品なので、床板ではなく主台枠に直接固定する。
●運転中に、サイドタンクの水位をひと目で確認できるようにする。
●運転中に、軸動ポンプからの戻り水量をひと目で確認できるようにする。
●トレーラーの補助タンクからも水が供給できるようにする。
●サイドタンクなしで試運転できるようにする。

上記の要求を全て満たすべく、設計を検討した結果、写真のような構造に落ち着いた。

給水ユニット

主台枠の後端左右に、ウェイトとして100×50×20mmの真鍮ブロックを固定し、この中に水路を切って、各部への給水を取りまとめる。ブロックは、後端を端梁に直接ネジ止めし、右のブロックにハンドポンプを載せて固定する。端梁もブロックも充分な強度があるので、ハンドポンプはこれでリジッドに固定されることになる。ハンドポンプはブロックから直接水を吸い上げる。左右のブロックはそれぞれ左右のサイドタンクに接続され(現時点ではメクラプラグで閉塞)、左右のブロックも銅管で接続される。左右のサイドタンク水位はこの銅管を通してバランスされることになる。銅管の途中から前に配管を分岐させ、軸動ポンプへ水を供給する(二系列)。ブロック後端からも配管を分岐させ、トレーラーの補助タンクを接続できるようにする。

フィルター左のブロック後端に太いパイプを立て、軸動ポンプからの戻り水を注ぎ込ませる。パイプはブロック内の水路に接続されており、水路の空気抜きを兼ねる。さらに上からのぞき込めば、サイドタンクの水位がここに現れることになる。ゴミ混入を避けるため、真鍮メッシュをハンダ付けしたリングをパイプの底に沈める。メッシュ中央にフックを付けて、簡単に取り出せるようにする(写真)。軸動ポンプの戻り水は、ブロック内の別の水路を通り、パイプの前にある柱を登って、その頂部に設けたバイパスバルブを通り、パイプに導かれる。

WILLIAMは構造上、運転室の床がランボードよりも高い位置にあり、床が二重になっている。左右のブロックはほとんどこの床下空間に埋まり、ブロックに出入りする配管も全て床下に隠されることになる。ちなみに汽笛はどこに付くかというと、ブロックの直下、ランボード下に取り付けるつもり。

サイドタンク水面と軸動ポンプ戻りを一度に確認するというアイデアは、大阪の佐藤氏のものである。氏はサイドタンク後端に透明窓を設け、そのすぐ上に軸動ポンプ戻り水を注がせている。WILLIAMの場合、サイドタンクが奥まっていて確認しづらいので、思い切って最後尾に引き出してみた次第である。パイプを透明にすればより視認性が高まるという助言もいただいており、最終的には改造する予定である。


銅管曲げ治具
給水系の銅管は、外径4mm・肉厚0.5mmのものを用いた。形状をCADで決めてそのとおりに整形して作った。現物合わせの煩雑さを避けるためである。写真は銅管を曲げるための治具。真鍮丸棒の一端に、銅管がちょうど収まるサイズの溝を切り、ここに銅管を入れて木片で溝に押し付けて曲げる。全てのRはこれで曲げたので、曲率はどれも同じということになる。


銅管トレース
複雑な形状のものは、実寸図面を打ち出してそれを型紙として整形した。必要に応じて、焼きなまして手で修正したが、完成後に簡単に変形しては困るので、焼きなましは最小限とした。


軸動サクション
軸動ポンプの吸い込み側の接続はかなり低い位置となる。オリジナルの設計では通常のユニオン接続になっているが、これだと銅管がレールの高さほどまで下がってしまう。最低地上高を少しでもかせぐため、銅管を下ではなく横に出すような接続法に変更した。


下部整備法
主台枠下部からの配管作業は、車体を収納ケースに入れた状態で、ケースを倒立させて行った。完成後もこれができれば保守がたいへん楽になる。煙室がボイラー重量に耐えられるのであれば、こういう大胆な整備方法が許される。


オイルポンプ駆動
オイルポンプは加減リンクで駆動される。オイルポンプのスイングアームは、ロッドを介して、加減リンク上端のピンに接続されている。逆転機の位置にかかわらず加減リンクの振りは一定なので、給油量は一定となる。


オイルチェックバルブ
オイルポンプとシリンダーの間には、逆止弁(オイルチェックバルブ)が設けられる。写真はその全部品である。球弁はカップを介してスプリングで弁座に押し付けられる。オイルはカップの外側ではなく中を通るようになっており、そのための穴が2個開いているのが見える。


オイル供給配管
写真は煙室を後方から見たところ。逆止弁を出た配管は左右に分岐して斜め上に伸び、左右の蒸気管に合流している。ここで注意すべき点は、左右の配管の長さ、高さを正確にそろえること。特に、蒸気管との合流点の高さに差があると、油は常に低い方に流れ込み、高い方のシリンダーには油が供給されなくなってしまう。理想的には、シリンダー1個ごとにオイルポンプ1台があれば良く、大型のライブではそういう例もある。



運転のためのすべての部品が完成した。次回はいよいよ試運転である。


(終)


前の月  次の月  目次