2003年11月 「試運転」


一本松レイアウトで試運転を敢行! 予想はしていたが、初運転の興奮の中で冷静に写真を撮る余裕などありはしなかった。そんな中、一本松同好会の今川氏が、ビデオをずっと撮影していてくれたおかげで、ビデオから写真を起こすことができた。


【組み立て】ボイラー最終テスト

ボイラーのバックヘッドは黒く塗装する必要がある。火室は外装で囲われるので塗装は不要なのだが、OS製ボイラーをまねて、火室前端まで黒く塗装した。使用したのはsoft99の耐熱塗料である。焼き付けは150度で1時間と指定されており、試運転をすれば自動的に焼き付けられることになる。ここに安全弁を除くすべての配管類を組み付け、シール剤が乾くまで1日待って、常用圧力の1.5倍で漏れテストをした。接続部分からの漏れはなかったが、右側の逆止弁からわずかな水のしみ出しが見られた。分解して再シーティングすると漏れはほとんどなくなったが完全には止まらない。ここはハンドポンプに接続されるが、ハンドポンプ側にも逆止弁が付いているので、もうこのまま使うことにした。


【電動ブロアー】

電動ブロアー
蒸気上げのための電動ブロアーは、英国BLACKGATES社から購入したもので、12ボルト用である。これを車載用バッテリーで駆動するのだが、風量を可変にするため、途中にNゲージのパワーパックを接続した(こんなところで役に立つとは・・・)。手持ちのトランスでAC100Vに変換してから再びパワーパックでDC12Vに落とすことにした。許容電流はぎりぎりで、スタート時に徐々に電圧を上げないと、内部ブレーカーが落ちる。



【初蒸気上げ】

蒸気上げ すべてを組み上げ、いよいよ初蒸気上げ。前後端梁をささえて車体をリフトアップし、ボイラーの注水プラグをはずして、水面計の半分程度まで水を入れ、注水プラグの代わりに、工業用圧力計(蒸気用)を接続する。給水系には補助タンクを接続し、こちらにも水を入れておく。オイルポンプにエンジンオイルを入れ、ハンドルを手でまわして、タンクの3分の1程度の油をシリンダー内に供給しておく。すべての可動部にオイルガンで潤滑油を注す。そして煙突にブロアーをセットしてゆっくりと回転させ、カセットトーチで火室内の加熱を開始。数分でボイラーが暖まり始め、指で触れられないほどの熱さになる頃には、安全弁から蒸気が漏れ始める。缶圧は徐々に上昇し、0.2MPaを越えたところでブロアーをはずして通風弁を開け、蒸気で通風をしながら加熱を続けると、やがて安全弁が吹く。ここで安全弁を再調整。ピンセットの先端で安全弁先端の調整ネジをまわし、前の弁が0.6MPa、後ろの弁が0.65MPaで吹くように調整した。ボイラーが小さいため缶圧が安定せず、かなり手間取った。調整が終わったらロックナットを締める。

ドレン弁を開け、いよいよシリンダーに蒸気を送る。ゆっくりと加減弁を開けていったが、ドレンから蒸気を吐くばかりでなかなか回転を始めない。1番ゲージで経験済みだが、ここで加減弁を全開にしてしまうと、いきなり動輪が高速回転を始めて、あわてふためくことになる。加減弁は微開のままで注意深く動輪を手でまわし、ドレンを排出してやると、自然に動輪が回り始めた。通風弁を閉じ、加減弁を調整して、適度な回転数を維持する。残念ながらブラスト音は全く聞こえない。無負荷なら0.05MPaのエアでまわるエンジンなので無理もないだろう。不思議なくらい静かだが、そもそも蒸気機関ほど静かな動力はないのである。

回転、停止をくり返しながら、30分ほど試運転を続けたが、水面計の動きがおかしい。軸動ポンプのバイパス弁を全開(給水ゼロ)にして運転しても、水位が下がるどころか徐々に上がっているではないか。まずバイパス弁を疑い、補助タンクの水位にマジックで印を入れ、水位の変化を確認したが、バルブを開けると水の消費が止まり、閉じると水が減る、つまり動作に問題はない。となると水面計自身の問題となる。上下の接続部のうち上が閉塞している可能性があるが、このままでは確認できない。さらにオイルポンプにも問題が発覚した。タンクの油が全然減らないのだ。ハンドルを手でまわすとちゃんと油は減っていくので、ゆっくり動かした場合だけ送られない、つまり逆止弁にわずかの漏れがあって、少しずつ油が逆流していると思われる。時々ハンドルを手でまわしながら運転を続けた。

オイルトラップ
運転を終えてシリンダーの下を見ると、オイルトラップの下にべったりと黒い油が流れ出ている。トラップがなければこの油はすべて煙突から吐き出されていたことになる。オイルトラップの絶大な効果に改めて驚かされた。実際、煙突から出るのは乾いた蒸気だけで、出口周囲には油分が全く現れていなかった。



【不具合修正】

水面計配管追加
まず水面計を取りはずし、上部接続を調べたが、穴を針金でさぐるとちゃんとボイラー内に貫通している。しかし、ここでブッシュの位置が低すぎることに気づいた。水面がガラス管の上端に達する前に、上のブッシュが水没してしまい、蒸気が通らなくなるのだ。水面計のすぐ横に、おあつらえ向きの蒸気箱予備ポートがあったので、水面計のガラス管上部から予備ポートまでパイプ接続を追加した。接続法は写真のとおり。この高さがあれば、ボイラーが満水になっても蒸気通路は確保される。


オイルポンプ本体作り直し
続いてオイルポンプ本体だが、逆止弁が漏れるとなると本体を作り直すしかない。耐久性を増すため、今度はリン青銅で作った。慎重に弁座加工を行い、慎重に気密テストを実施(前回はここがいい加減であった)。写真右が新たに作った方である。



【ショベルと火かき棒】

ショベル
ショベルは、自分の機関車の焚き口に合わせて作ると、使いやすいものができる。丸い焚き口には円筒状のショベルが適当である。焚き口よりひとまわり小さい真鍮パイプの一端を円盤でふさいでロウ付けし、糸ノコで縦割りにしてさらに先端を斜めにカットする。これに真鍮の柄をやや傾けてロウ付けし、木の丸棒の取っ手を接着した。Williamは縦長い狭火室なので、ショベル部分をもっと長くしても良かった。一方の火かき棒は、その辺に転がっていた鉄棒を万力にはさんで、プライヤーで適当に曲げたものである。


二年前に買ったウェルズ炭がやっと日の目を見る時が来た。ただし100kgの在庫のうち、今回の試運転で持ち出したのは3kg程度である。火入れ用には、灯油漬け木炭を用意した。簡単に着火し、火持ちも良いので、スムーズに石炭焚きに移れる。木炭は100円ショップで売っている安物を使った。あらかじめ焚き口を通るサイズに砕いておき、灯油を入れた密閉容器に浸漬しておく。


【トレーラー】

トレーラーのブレーキ
エア運転のときに作ったトレーラーをそのまま使うが、今回は高速運転になるので、ブレーキ装置(OSのオプションキット)を付けた。水タンクは、座席にちょうど収まるタッパーを買ってきてここに口金を設け、ビニールチューブでキャブの給水口に接続する。



【試運転】

運転準備10月11日、一本松の運転会前日、早々に岡山入りした私は、長時間ドライブの疲れをものともせず、さっそく蒸気上げを始めた。同好会の中原氏と今川氏が作業を手伝ってくれた。初蒸気上げと同じ手順で準備をして、カマに火を入れる。灯油漬け木炭を焚き口の下くらいの深さまで入れ、カセットトーチで点火してすぐ焚口戸を閉じる。ブロアーで強制排気してそのまま数分放置。パチパチと木炭のはぜる音が聞こえる。頃合いを見計らって石炭の投入を始める。一度に2杯くらいずつ、燃え具合を確認しながら投炭していく。実機と同様、毎回投入位置を変えて、火格子全体に均一にまくようにする。気温が高かったせいもあり、わずか数分程度で安全弁が吹いた。



トレーラーにまたがり、加減弁を開いていくと、ドレン弁から蒸気を吹き出しながらゆっくりと動き出した。ドレン弁を閉じて順調に加速していく。そのまま慎重にポイントを渡り、本線を一周する。この間、投炭をしなかったために缶圧が0.2MPaに落ちてしまった。カセットトーチで火室を直接加熱し、缶圧0.4MPaに回復させてから通風を効かし、石炭を追加していく。何周かするうちに投炭ペースがつかめてきた。狭火室なのでパワー不足を覚悟していたが、気温が高いせいか、ウェルズ炭の高カロリーのせいか、石炭は焚き口のずっと下、火格子がやっとおおわれる程度の量でバランスしている。レイアウト1周でショベル2杯くらい。3杯まで入れると、走行中安全弁が吹きっぱなしになる。これだけ余裕があれば、客扱いも楽にこなせそうである。

初走行火室の様子


翌日の運転会では、同好会の機関車にまじって運転を楽しんだ。途中からトレーラーを1両つないで客扱いを開始したが、大人5人くらいまでは空転もなく牽引できる。
一本松の軌道は鉄製で、かなり腐食が進んでいる。1周しただけで下回りがサビで真っ赤になるくらいである。その分、粘着力はたいへん大きい。動輪軸重20キロ程度のロコで大人5人を楽に引き出せるのも、一本松ならではだろう。


牽引テスト最後に、客車をさらに1輌追加し、大人9人+子供1人の牽引に挑戦した。フルギアで何とか動き出したが、すぐに空転する。加減弁を微妙にコントロールして空転を抑え、慎重に加速していく。ブラスト音はパカパカという破裂音に近く、シリンダーが壊れるのではないかと思われるくらい。レイアウト4分の1周くらいでやっと巡航速度に達したが、カットオフを絞るとすぐに減速してしまう。フルパワーでパカパカと走り続けながら、こりゃあ一周は厳しいなと思った。やはり半周を過ぎたあたりで圧力が急速に下がり始め、速度はどんどん落ちていき、4分の3周あたりで、圧力計の指針は完全にゼロになってしまった。あとは人に押してもらって駅に入線。ちょうど時間となったので、これにて運転終了とした。
途中で止まった原因は、大荷重を引くための事前準備が不足していたことにある。まず缶水を充分に補給して、走行中に給水しなくても良いようにする。そして石炭の量を増やして通風を強め、火が回って缶圧が急上昇し、安全弁が吹く直前に発車できればベストだろう。走行中も投炭した方が良さそうである。車体が完成してさらに軸重が増えたら、大人10人に挑戦してみたい。

運転開始時と終了時の写真を見くらべて、お気づきの点はないだろうか。二日間、フルに運転して、ボイラーが銅色から金色に変色してしまった。正確には、銅色→赤紫→金色と変化した。なぜだろう?


(終)


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