1999年5月 「ボイラー製作開始」


ライブ製作は台枠から作り始めるのが定石だが、
下回り部品が揃わないので、難関のボイラーから作り始めることにした。

電動模型をやっていた私からすれば、SLの魅力は動輪、ロッド、バルブギアなどの動力伝達機構にあり、
ボイラーなどできれば関わりたくない存在だった。
しかしいろいろ調べいるうちに、これはこれで機械とは違った魅力があることがわかり、ぜひ作ってみたくなった。


【機関車ボイラーはクラインの壺?】



上の図はWILLIAMのボイラーの断面図だが、赤い部分が火室、黄色が煙管であり、
水色の部分に水と蒸気が詰まっている。
火室で石炭を焚くわけだが、ご覧のとおり、火室は完全に水で囲まれており、
なおかつ水の入る部分は密閉された空間になっている。
したがって空間的には火室の外側が内部で、火室の内側と煙管内が外部という、
クラインの壺のような状態になっている(厳密には違うが)。
さらに高圧に耐えられるように、火室と外壁とは無数の控(stay)でつながれている。
これを全て銀ロウ付けで漏れなく作らないといけないのだから、いかに大変かがわかる。

まずは缶胴(boiler barrel)から作る。上の図でいうと、火室より前のストレートの部分にあたる。
缶胴の製作法は、

@太い銅管を使う(ストレートボイラー)
A銅板を丸めて作る(テーパーボイラー)

WILLIAMのボイラーはストレートだが、定尺でこのサイズの銅管を買うと値が張るし、
日本の規格だと肉厚が厚すぎる。
英国では最適の銅管をモデラー用に分売している様子だが、
手配するとまた待たされるに決まっている。ということで、Aの方法で作ることにした。

Sievert Tourch2.5mm厚の銅板を所定サイズに切り出し、焼き鈍しするのだが、
このサイズになるとカセットトーチでは歯が立たず、プロパンガストーチを使用した。
この世界で有名なスウェーデンのSIEVERT社製で、
火口を交換できるセットを購入(写真右)。
しかし、一番大きい火口"3342"でも2〜3分掛かる。
それに、ゴーというものすごい音がして、大変気が引ける。
保温のため囲った耐火レンガが1個、熱で割れてしまった。
(買うときにヒビのチェックを忘れた)

Rolling Jig続いて鉄パイプ(炭素鋼鋼管)を芯にして銅板を丸める。
まず大きめのものに全体を巻きつけ、小さめのもので部分的に曲げを追加する。
銅板を鉄パイプに平行に支持するため、
写真のような治具を作って銅板をパイプに固定した。
これを万力ではさみ、プラスチックハンマーで叩いて曲げていく。
完全に丸くなるまでに3回の焼鈍が必要だった。
最後に継ぎ目がきれいに揃わず(中央を合わせると両端で0.3mm程度の隙間ができる)、
さらに焼鈍して調整。

材料が丸くなったら、同じ材料から継ぎ板を作り、リベットで固定するが、その前に酸洗いをする。
5%希硫酸に材料を10分程度漬け込んでおき、取り出してワイヤブラシで汚れを落とす。
乾燥後、フラックスを塗った銅リベットで組み立てる。

【酸洗い】

Dameged Shirt容器はプラスチック製が良く、衣装ケースを使った。
希硫酸はバッテリー液でもよいが、
薬局で売っている98%濃硫酸を希釈して作るのが経済的。
水を容器に満たし、濃硫酸をたらして希釈する。
いったん希釈すると比較的安全になるが、服に付いたものを放置しておくと、
数日後に穴が開いた(写真)。安物でよかった!
取り扱いには注意が必要で、使わないときはしっかりフタをして
安全な場所に保管しておく。
うちには安全な保管場所がないので、ポリタンクに保管している。

銅材料の焼鈍、銀ロウ付けをやると、酸化膜で真っ黒になるが、
これを希硫酸に10分漬けておくと、
皮膜が溶けて銅のピンク色に戻る(硫酸は徐々にブルーに染まっていく)。
これをブラシで水洗いして乾燥すればOK。


【銀ロウ付け】

First Soldering Operation銀ロウは、JISの「BAG-1」が良いとされている。
これをメインに使うとして、それより溶解温度の高い
「BAG-20」というのも手配し、まずはこれを使用。
適当に切って、継ぎ板の左右とリベット部分に並べ、
耐火レンガに載せて、ガスバーナーで銀ロウの反対側、
つまり缶胴の外側をあぶり、銀ロウが流れるのを待つ(写真上)。
しかし一番大きいバーナーで5分以上加熱してもほとんど溶けない。
銀ロウをBAG-1に替えてやり直してみたが、ダメ。

Second Soldering Operationそこで、缶胴の左右と上と奥とを耐火レンガでがっちり保温し(写真下)、
BAG-1でやり直すと、保温の効果はてきめんで、
3分足らずの加熱で銀ロウはきれいに溶け、
継ぎ目の裏まで銀ロウが回ってくれた。
なお、銀ロウ付けはやり直すたびに、酸洗いとフラックス塗りが必要。


銀ロウ付けが終わったら、缶胴内径と同じサイズの木の円盤
(厚さ20mmの桜の木を旋削)を通しながら、
周囲をプラスチックハンマーで叩き、胴を真円に整形する。
Barrel Turning続いて桜円盤2枚で両端を支えて、旋盤で端面を削り、正確な寸法を出す(写真右)。

工作機械による木工は、旋盤もフライス盤もサクサク削れて気持ちが良い。
思わずWood Craftに転向したくなるが、それではMyford旋盤が泣くというもの。
桜を使ったのは、堅くて機械加工に適しているからだが、値段は鋼材より高い。

とりあえず、缶胴が完成。
なお、今回の工程は、平岡幸三著「生きた蒸気機関車を作ろう」を参考にした。

【音がうるさい順番】

@銀ロウ付けのバーナー(昼間でも連続してはやれない)
A板金のハンマー(夕方までが限度)
B切断の金ノコ(夜9時までが限度)

ボイラー製作に関しては、出張工作も本気で考えないといけない。
まして平日の工作は絶対無理で、平日の夜はこのような駄文ばかり書くはめになる。
缶胴だけで1ヶ月も費やしてしまったが、こんなことなら英国から銅管を買う方が早かったかもしれない。
銅管があれば、缶胴から外火室に至るまで一気に出来てしまうが、
私はこれから外火室を別に作って継ぎ足さないといけない。


HPを通じて、横浜のmaki氏と知り合う
この方も、かのPENNSYLVANIAのオーナーだが、現在は何と、私と同じWILLIAMを製作中らしい !!!
私より遙かに進展していて、ボイラーもすでに完成されており、してやられたという感もあるが、
初心者の私としては、先駆者の出現は非常に心強いものがある。

今月は、進捗は少ないが、奮戦はした。



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