2002年6月 「下まわり組み立て」


ロコがスムーズに走るかどうかは今回の組み立てで決まる。個々の部品が主台枠を基準として正確に建造されていなければならない。各部品の取り付け位置は現物合わせで決め、位置決めピンなどを追加して、分解、再組み立てで位置精度が保てるようにする。

組み立てに入る前に、モーションプレートの精度を確認した。定盤を台枠に見立ててモーションプレートを立て、スライドバーを入れる溝部分の高さをハイトゲージで確認する。ここがずれていると、スライドバーが台枠と平行にならない。さらにクロスヘッドの上下にスライドバーを入れたものを、モーションプレートの上下の溝部分に差し込んでみる。新聞紙1枚を挟んで指で押し込めるくらいのクリアランスがあれば良い。問題がある場合はヤスリなどで修正をかける。

モーションプレート位置決め
モーションプレートの位置決めをする。台枠には加減リンク軸合わせのための穴が開いており、ここに丸棒を通してその丸棒にモーションプレートのブッシュを通し、さらにスコヤでプレートを垂直に立てれば、モーションプレートの位置が決まる。アングル部分をクランプ固定し、ネジ穴を台枠に移し開け、ネジ止めする。さらに組み立ての再現性を高めるため、φ2穴を貫通させてここに位置決めピンを入れることにした。


スライドバー位置決め
台枠の所定位置(あらかじめケガキを入れておく)にシリンダーブロックを載せ、スライドバーを入れてみる。前部のスライドバー高さは、所定の長さに仕上げた真鍮の角柱で出した。この状態でクロスヘッドを動かし、スムーズに動くことを確認したら、クロスヘッドだけ抜いて再び位置を出し、スライドバーとシリンダー後カバーを瞬間接着剤で固定する。なお、ピストンをスムーズに動かすため、ピストンバルブは抜いてある。


シリンダーカバーに皿もみ
慎重に分解し、スライドバーの穴を通して、シリンダー後部カバーに皿もみを入れる。接合面積が小さくてクランプで固定できず、接着剤のみに頼ることになったが、スライドバーの重みですぐにはずれ、何度もやり直すはめになった。ロックタイトのような強力な接着剤を使えばよかった。このあと皿もみを頼りにカバーに下穴を開け、タップを立てる。あまり穴を深くすると内部のグランド部分のネジ山が変形してしまうので注意。



設計ミス
ここで、シリンダー後部カバーのネジ頭とスライドバー固定ネジ頭が接触してしまうことが発覚! 設計変更した私の設計ミスである。図面を引くときにちゃんとネジの頭まで描いておくべきだった。
接触を回避するため、シリンダーカバーのネジを六角ネジから六角穴付きネジに変更し、さらにスライドバー固定ネジは旋盤で加工して頭を小さくした上で、スライドバーに座繰りを入れて半分埋め込むことにした。


台枠はここで一度分解し、シリンダー設計変更で追加した穴などを開ける。続いてスライドバー付きのシリンダーを載せ、モーションプレートの溝部分にスライドバーの先端を入れ、ケガキを頼りにシリンダーの最終位置を決める。そして瞬間接着剤で仮固定した上で、平行バーでしっかり固定する。

シリンダー固定穴の移し開け
シリンダー位置が決まったところで、台枠の裏から穴にドリルを通して、シリンダーブロックに皿もみを入れる。シリンダーブロック裏面には真鍮板のフランジが付いているが、ドリルはここを貫通させてブロック本体に皿もみを入れるようにする。ここもモーションプレートと同様、φ2の位置決めピン用の穴を開けておいた。


シリンダーのタップ立て
分解して、シリンダーブロックの皿もみを頼りにネジ下穴を開け、タップを立てる。ネジ穴の深さは図面をもとに慎重に決める。あまりボア近くまで掘るとボアの変形を招く。特に、タップが底付きした状態でさらにねじ込んでしまうと、タップの先端が穴の底を強く押して、反対側に突起が出てしまうことがある。タップにナットをねじ込んで、これをストッパーにしてネジを切った。主台枠は、再び旋盤のベッド上で組み立てておく。


ガスケット
シリンダーカバーにガスケットを入れると、ガスケットの厚さ分だけスライドバーが後ろにずれることになる。従ってスライドバー位置決めにはガスケットも必要であり、古ハガキから作製した。CADで形状を印刷してカッターで切り抜いた。
シリンダーを分解し、ガスケットを入れ、さらに裏面のフランジにシール剤(ロックタイト510)を薄く塗って組み立てる。そして主台枠にモーションプレートを取り付け、続いてシリンダーを取り付ける。


古いアングル材
またしても設計ミスが発覚。今度はスライドバー後端をモーションプレートに固定する真鍮アングル上で、ネジ頭とリベット頭が干渉することがわかった。ネジ加工での回避は無理だったので、アングルを作り直すことにした。写真は、作り直す前の古いアングルで、直角をはさむ三つの穴が近すぎることがわかる。アングルはモーションプレートに鉄リベットで永久固定され、ここにスライドバーをネジ止めすることになる。


スライドバーに皿もみ
スライドバー後端をモーションプレートの溝に納め、アングルの穴を通してスライドバーに皿もみを入れ、いったんスライドバーを外してネジ穴を開け、再び組み付けて小ネジでスライドバーを固定する。


動輪、サイドロッド、メインロッドを組み付け、動輪を回して前死点位置に持ってくる。シリンダー前部カバーを外してピストンロッドをマイナスドライバーで回し、ピストンが所定位置に来るようにロッド長さを調整する。終わったら改めてロックナットを締め付け、前部カバーを付ける。ピストンロッドとクロスヘッドの固定は、最終的にはテーパーピンを打ち込む予定。

S字カーブでテスト
各部に注油し、組み線路のS字カーブで走行テスト。総重量はここまでで13kgとなった(ボイラーを除く)。動きの柔らかさの目安として、シャーシの自重だけで線路に粘着して回転できることを前提とし、さらに1回転中で抵抗にムラがない状態をめざした。ムラを感覚で探し当てるのは難しい。目をつぶって指先でゆっくり車体を押し、固いかなと思ったところで目を開けて位置を確認する。これを何度かくり返していつも同じ位置になっていればそこが固いということになる。


満足のいく結果が得られるまでに以下の修正を実施した。

  1. スライドバー後端を止める真鍮アングルが、リベット打ちで膨張してスライドバーを圧迫、クロスヘッド後半での動きを固くしていた。平ヤスリで修正。
  2. スライドバー後端の内側のエッジがメインロッドとぎりぎり接触していたので、後端部を10度の角度で斜めに削り落とした。
  3. メインロッドのそりと第二クランクピンの傾きにより、1回転中できついところがあったので、ロッドをクランクピンに入れたまま横方向に力を加えて強引に修正した。


下回り完成

下まわりの山場をクリアすることができた。ここまでできると、線路上を転がすだけで楽しめる。回転に同期してドレイン穴からシュッシュッと排気音が漏れるところなど、泣かせてくれるではないか。


(終)


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