2003年5月 「火格子と灰箱」
オリジナル設計の灰箱は単なる箱であり、この上に火格子を乗せ、主台枠下から入れ、側面から貫通ピン1本で串刺しにして固定するようになっている。ガイドブックの説明によると、トラブルで緊急消火しなければならない場合、貫通ピンを引き抜いて火格子ごと灰箱を下に落とせば、即座に火種を取り除くことができるとのこと。確かに良いアイデアだが、火を完全に消さない限り、たまった灰は落とせないことになる。これでは不便なので、貫通ピン方式はそのままにして、灰箱の底を扉にして開閉できる構造とした。通常は後ろにダンプする方法を取るが、灰箱が縦長いので、1枚扉では開度をかせげない。さらに灰箱のすぐ後ろに第三動輪の車軸と軸箱があり、ここに灰をふりかけるのはトラブルの元である。そこで、二枚扉が左右に開く観音開き方式にして、灰を灰箱の直下に落とせるようにした。
【灰箱】
扉の開閉はキャブ内から遠隔操作でできるようにしないといけない。さらに、灰箱を外す際にはここのリンクを切らなければならない。これを満たす構造を検討し、図に示す設計に落ち着いた。扉の回転軸にはそれぞれ45度の方向にレバーが設けられ、ここからアームを介して中央上部のブロックに接続される。このブロックにはネジ穴が開いており、上から操作棒(丸棒)をねじ込むようになっている。主台枠の横梁を利用して真鍮製のブッシュ(角棒)が設けてあり、操作棒はここを通して下のブロックにねじ込まれる。操作棒の周囲にはスプリングが入っており、棒を下に押すと中央のブロックが下がって扉が開き、手を離すとスプリングの力でブロックが戻って扉が閉じる。ブッシュはブロックの上限ストッパーを兼ねている。スプリング付きの操作棒が焚口直下に突き出て多少見苦しくなるが、その点は目をつぶろう。
火格子と灰箱は、機関車の中で最も高温になる部品であり、ステンレス製とするのが望ましい。底板と側板は厚さ1.5mmのステンレス板から切り出したが、とにかく固くて糸ノコの刃を何本折ったことか・・・。扉の開閉軸はステンレス丸棒とし、側面にメタルソーで溝を入れて底板を差し込み、黄銅ロウ付けした。前後妻板は厚手の平鋼材から作り、リン青銅のブッシュを圧入して蝶板の軸受けとした。側板はここにネジ止めされ、さらに左右側板はステンレスパイプで接続される(ここもロウ付け)。このパイプの中を貫通ピンが通ることになる。リンク機構は平鋼材から作り、S45Cを焼き入れしたピンで接続した。ピンの固定には、いつものようにEリングを使用した。左右のレバーはセットビスで軸に固定されるが、角度がずれないように、軸の側面を浅く平面加工し、ここにセットビス先端が当たるようにした。
【火格子】
WILLIAMの火格子は鋳物が提供されているが、REEVES社のそれはWILLIAM専用ではないらしく、サイズが合わない。両端を切り落とさないと火室内部に収まらないのだ。普通の鋳鉄であれば金ノコでバッサリ切れば終わりだが、この鋳物はとにかく鬼のように固く、まるで歯が立たない。ノコで引いても煙ばかり出てすぐ刃が駄目になり、ヤスリも滑って役に立たない。おまけにたいへんもろく、衝撃でポロポロ欠けてしまうではないか。鋳鉄のチルと同じ状態である。試しにバーナーで焼きなましてみたが、ほとんど変化はなかった。仕方がないので、グラインダーで不要部分を全て削り落とした。(左が加工前、右が加工後)
灰箱へ固定するため、火格子にドリルで穴を開けるつもりだったが、とんでもない! 灰箱にアングル材を付けてそこに乗せるだけにした。なお、鋳物の格子部分には抜き勾配が付いているが、開口の広い方を下にする。さもないと、格子が灰で詰まってしまう。また、火格子と火室のはめ合いは思いきってガバガバにした方がよい。さもないと、熱変形で火格子が抜けなくなってしまう。
【開閉調整】
灰箱を台枠に固定して、左右アームの前後位置を調整し、スプリングなしでピンを上に引いて手を離したとき、とストンと下まで落ちて扉が全開になるようにする。スプリングはステンレス鋼線を巻いて作ったが、閉じたときに0.5kgf、開いたときに1.5kgfになるように設計した。やや重たいが動作は確実であり、熱によるヘタリを考えても、これくらいで良いだろう。
(終)