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2007年9月 「先従輪」


ようやく車輪の切削に取りかかった。最初に鋳物を入手しておきながら、なぜさっさと削らなかったかというと、

1) タイヤコンタ(車輪踏面形状)がなかなか決まらなかった
2) 主台枠に動輪を取り付けると、重たくて持てなくなる
3) 車輪をいったん削ってしまうと、磨き出し部分の防サビ対策が大変
4) 車輪を付けると乗り物くさくなり、シャーシのメカニカルな美しさが失われてしまう

という理由による。4)は鉄道ファンにあるまじき発想かもしれないが・・・

さてタイヤコンタであるが、私のC53はOS組線路7.5R通過を前提としているので、バックゲージは119ミリとする(規格は118.6ミリ以上)。ところが、バックゲージが長すぎると、今度はモデルニクスなどガードレールの間隔が狭い軌道において、ポイントで内側の車輪が引き込まれて、フランジがノーズレールに乗り上げやすくなる。この対策としては、なるだけフランジを薄くし、かつフランジの外側の壁面にはテーパーを付ける。フランジを薄くすることで軌道上での左右の遊びが増え、急曲線通過にも有利になる。


最終的に決めたタイヤコンタ形状を示す。トレッドとフランジの接続部のRは1.5ミリとした。ここが軌道の内側のRよりも小さいと、曲線で走行抵抗が増え、車輪の磨耗も激しくなる。フランジは強度的に許されるぎりぎりまで薄くした。フランジ外側のテーパーは10度である。本当は20度にしたいのだが、そうするとフランジが厚くなって左右の遊びが減ってしまう。タイヤコンタは動輪、先輪、従輪で統一する。ただし全体の厚さは動輪の方が厚い。


まずは小車輪から切削した。テンダーを入れると全部で14枚にもなり、途中でイヤになることは必至なので、先輪従輪の6枚だけ先に加工することにした。鋳物はダクタイル鋳鉄である。


最初に、四爪チャックで裏面を仕上げて、軸穴を開ける。センターは、4つの爪の位置からおおよそ出した。19ミリの軸穴は、中繰りバイトで仕上げた。穴の直径を揃えるため、0.02ミリ単位で段差加工をした穴ゲージを使用した(写真の右端に見える丸棒)。穴の面取りは裏側だけにする。続いて、剣バイトで裏面スポーク部分の座繰り加工をした。深さは1.5ミリ。これで裏面の仕上げは終わりとなる。



ここで表面側の加工のためのヤトイを用意する。サイズの近い、WILLIAMの動輪用ヤトイを再利用した。中心の穴のサイズが違うので、中心のピンだけ作り直した。さらに車輪の固定のために、スポークの間とピンの中心にネジ穴を開けておいた。三爪チャックして、外周の車輪接触面を再仕上げし、中心ピンの直径も仕上げたら、以後は全ての加工が終わるまで、チャックから外してはいけない。正確なセンターを保持するためである。



まず外周を固定してボスを仕上げる。ツールは内側からしかアクセスできないので、中繰りバイトで切削した。



続いて内周を固定してリムを仕上げる。内周を固定する際は、加工物の回転防止のため、外周固定用のネジ穴に短いピンをねじ込んでおく。表面を仕上げ、さらにリムの内側を削って幅を出す。実機の図面には出てないのだが、C53のほとんどの機番は、先輪のリムの幅が従輪のそれよりも狭い。写真から幅を割り出し、それに従ってスポークとリムの境界を段差加工した。



タイヤコンタの形状を正確に削るため、0.1〜0.2ミリの細かいステップで刃先を微動させ、必要な断面形状を削り出した。XYのダイヤル位置を一覧表にして、それを見ながら切削した。まず0.2mmの仕上げしろを残して、車輪6枚全部について荒削りをし、バイトのチップを新品に交換して、全部の仕上げ削りをした。この時点では、トレッドは平行のままである。なおフランジの裏側にはバイトが回らないので、左勝手バイトに持ち替えて加工した。これもローテーションで6枚まとめて実施。




加工の途中で、車輪1枚のトレッドに巣が出現した。多少の巣は許容するつもりだったが、トレッドとなると強度上の問題があり無視できない。1枚だけ作り直すことにした。ヤトイを一度リリースしなければ中心の穴開け加工ができないが、三爪ごと外して再び取り付けると、ピンのブレは0.01ミリ以内に収まってくれた。こういうこともあるので、鋳物に余裕があるなら、最初から1枚くらい余分に加工をしておいた方が良い。



トップスライダーを傾けて、トレッドのテーパーを削る。フランジとスムーズに接続するため、フランジの根元に平行部分をわずかに残した。最後にトレッド前端の面取り加工をして、切削は終了となる。細い丸ヤスリで細かい段差を除去し、切削面をペーパーで磨き出した。研磨することで、サビの進行を抑えることができる。



仕上がった車輪。左が先台車用で、右が従台車用である。油引きをして保管しておく。


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