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2007年10月 「イコライザ(1)」


次は動輪、と思いきや、さにあらず。棒台枠にイコライザ装置を組み込む。イコライザ部分だけ抜き出したのが下の図面である。第一、第二、第三動輪と従台車がイコライザで接続されている。C53は棒台枠であり、担バネ(板バネ)はいずれも車軸の上にある。


動輪の間を接続する釣合梁は、主台枠の窓の内部で動くが、これが大きく傾くと窓の天井面に当たってしまう。これがイコライザの最大変位となる。車体がV字谷軌道を通過するときのイコライザの変位を表計算ソフトで計算してみた。下のグラフは、第二動輪が谷底を通過する瞬間を示す。赤い点が車輪の位置で、左から先台車中心軸、第一、第二、第三動輪、従台車となる。間をつなぐ青い線がイコライザだが、上下の接続は省略して、平坦軌道ですべての点が横一列になるようにしている。緑の線は、車体の傾きを示す。グラフでは縦軸が誇張されている。傾きによる軸距の縮みは考慮していない。グラフの上下を反転すれば、同じ条件で山の頂点を通過する状態となる。

計算の結果、谷でも山でも6.5パーミル(変化量13パーミル)あたりが限界となった。実際の傾斜はもっとなめらかに変化するので、通常のレイアウトの最大勾配10パーミルあたりまでは大丈夫だろう。担バネは最大で5.3度くらい傾くので、両端の穴はこれを許容するだけの余裕が必要となる。ちなみに、軌道がイコライザの限界に達しても、軸箱だけは下に落ちるため、車輪が浮き上がることはない。軸重が不均一になるだけである。軸箱の下にはそのための充分なクリアランスが確保されている。


工作を開始。まず担バネの両端を貫通する「バネ釣軸」から作った。アイボルト形状のものとフォークエンド形状のものとがある。まずアイボルトだが、ボルト部分は5mmの丸棒。アイボルトの目玉は10mmの丸棒で、いずれも材質はS45Cである。これらを銀ロウ付けで組み立てる。ストレートの接続でも強度は充分なのだが、銀ロウ付け作業中に部品を完全保持するため、先端にネジを切って固定した。さらにネジ部分にロウを流れやすくするため、雄ネジ側に三角ヤスリで縦に2本、切れ目を入れた。接続部のネジは、アイボルト部分の幅によって、M5細目とM4.5を使い分けた。



フォークエンドは、レーザ加工された角棒にスリットを切って作った。長めの材料をバイスチャックしてエンドミルで縦溝を掘り、下を切断して仕上げた。アイボルトと同様に、軸とネジ接続する。



4組ずつまとめて銀ロウ付けを実施。すべての部品をアルコールで脱脂し、軸の先端にフラックスを塗ってねじ込む。1mmの銀ロウをコイル状に巻いたものを切断して輪を作り、軸に入れる。軸が過熱しやすいので、バーナーの炎を下から這わすようにしてロウを溶かした。水で洗いながらワイヤブラシで掃除し、ロウが穴の内部まで回っていることを確認する。内部に盛り上がった銀ロウは、リーマを通して除去する。



軸の1ヶ所だけ、ナットではなくコッタで固定となっている。2mmのエンドミルで長穴を掘り、ここに2mm鋼板のコッタを入れる。エンドミルの刃長が4mmしかなかったので、両側から溝を入れて貫通させた。実機ではコッタは固定されていないが、頻繁に軌道から外される模型では、抜け落ちる可能性がある。割ピンで固定できるように貫通穴を開けた。



製作したバネ釣軸のすべて。先台車用の4本も含めて全部で24本である。実物では、アイボルトの幅は軸の幅と一致しているが、模型では、接続される部品の形状の関係で、幅がばらばらになった。



続いて動輪の釣合梁を作製した。シルエットはレーザ加工で切り出しているので、穴開けと側面の段差加工だけである。中央の穴にはリン青銅のブッシュが入れてあるが、これは必須ではない。レーザで開ける穴のサイズを間違えたために入れざるを得なくなったのである。ちなみにシルエットは実機と微妙に異なっている。これは、さきほどの軌道通過条件を満たすため、釣合梁を実機以上に左右に大きく傾ける必要があるからである。



動輪用の担バネの下には、主台枠をまたぐバネ台があり、ここを通して動輪軸箱に荷重が掛かるようになっている。バネ台は、中子付きの両面割り鋳物で、コの字の断面形状と四角の側面窓が表現されている。実機では、担バネ、バネ台、軸箱は完全に独立して、それぞれ溝にはめ込んであるだけだが、これだと車体を持ち上げたときに自然分解してしまう。そこで担バネとバネ台をネジで固定して一体にした。バネ台頂上の担バネを固定する面を仕上げて、中央にネジ穴を開け、担バネをまとめているネジを利用して固定する。



バネ台は板バネとともに左右(車体方向だと前後)に傾くことになるので、底はストレートではなく曲面にして、軸箱上で左右に傾けるようにした。アールの中心が、担バネの最上板の中点になるように、半径を決める。バネ台が傾いたときの転倒力と復元力のバランスを取るためである。加工にはロータリーテーブルを使用した。バネ台の上面をネジ止めするための平鋼を取り付けておき、ここで加工物の位置決めをして、裾部分を別の平鋼でテーブルに押し付けて固定し、エンドミルで加工した。



従台車釣合梁は、鋳物(捨て型)で用意した。まず両端の軸穴を開け、軸穴位置を基準にして中央側面を仕上げて穴を開ける。本体への取り付けにはワッシャを用いて、釣合梁受の側面に直接こすれないようにする。固定ピンはS45C丸棒を旋削して作った。実機と同様、スリットのない丸ヘッドで、裏を割ピンで固定する。
釣合梁と釣合梁受それぞれに3個の穴が開いている。ピンは中央の穴に収まるが、変えようと思えば変えられる。たとえばピンを前の穴に移動すると、従台車の軸重が減り、それに応じて、動輪から従台車に至る釣合と等価な支点の位置が前にずれ、先台車の軸重も減る。その分、動輪の軸重が増え、牽引力は増大する。計算だと動輪軸重が20%程度も増加する。



従台車のイコライザを仮組みしてみた。バネ釣軸はダブルナットで固定されるが、担バネとナットの間には、複雑な形状のバネ用座金が入る。これは次回紹介する。



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