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2016年11月 「ヘッドカバー(1)」



シリンダーヘッドには薄板のカバーが付き、ボルトが隠される。シリンダーヘッドが6個なのでカバーも6枚必要である。形状は部位により異なるが、いずれも外周がフランジ加工されたフタ型になり、直径は73mm。銅板の叩き出しでは表面がボコボコになるので、今回は「スピニング加工」を試みた。スピニング加工は、平板を回転させながらローラーで金型に押し付け、塑性変形させる加工法である。(写真はC5345実機)


ローラーは回転する円盤だが、曲面に押し付けるため、断面をアールに成型する。材料は、実際のスピニング加工では鋼材が使われるが、加工のしやすい砲金を使用した。13mmの角棒をホルダーとしてローラーを保持した。ローラーの直径は25mmで厚さが6mm、軸径は8mmである。




ローラーのアール部分は、計算された細かいステップでバイトを送って段差を作り(0.4ミリピッチ)、ヤスリで角を取って、サンドペーパーで研磨して仕上げた。



金型(写真左)は、車輪の加工用にストックしていた鋼円盤を加工して作った。肩のアール部分は、ローラーと同様に、ステップ加工してから研磨で仕上げた。材料の都合で、チャック部分は別の円盤で作り、ボルトで連結した。さらに、加工中に材料を金型に押し付けるための心押し円盤も用意した(写真右)。回転センターで保持するため、60度のテーパー穴が掘ってある。



加工材料は、0.8mmのアルミ板とした。理由は後述。デバイダーで円盤をけがいて糸鋸で切り出した。加工の過程を定点写真で示す。加工物の表面に潤滑のためのグリスを塗り、ローラーで内径から外径に向かってゆっくりしごいていく。一度で最終形状にはせずに、少しずつフランジ部分を曲げていく。実際は5〜6ステップくらいかけて仕上げた。曲げていくにつれてローラーの角度を変えていく。ローラーは斜めに動かす必要があるが、刃物台の縦軸と横軸を両手で同時に微動させた。




材料選定にあたってトライ&エラーを実施。まずは0.5mmの真鍮板でやってみた。金型のすぐ外側を押していくと、外周端が逆方向に反って、ローラーで変形させようとしても戻ってしまう。強行するとパリパリと音がして、外周が破れてしまった。いきなり大失敗!



同じ真鍮板をバーナーで赤熱まで焼鈍してやってみた。最初に焼鈍して開始し、途中でさらに焼鈍し、多少は改善されたが、最後はやはり破断してしまった。なお、最初は回転数420rpmで実施していたが、途中でローラー軸の焼き付きが二度起こり、途中から回転数を210rpmに下げた。



少し変形しては焼鈍を繰り返し、焼鈍5回くらいで、ようやくここまでできた。必要範囲はほぼフランジ形状になっている。この後、同じやり方で2枚目をトライしたが、破断して失敗。非常に不安定で歩留が悪い。結局、この時点で真鍮板を使うのはあきらめた。



今度は、0.5mmのアルミ板で実施。真鍮と比較すると展延性が高く、裾が破れたものの、使用範囲は綺麗に整形できた。焼鈍も必要ない。ただし真鍮と同じ厚さだと強度に不安がある。



1.0mmのアルミ板で実施。何とか整形できたが、今度は材料が硬すぎてローラーに掛かる負担が大きく、刃物台の送りネジのダメージが心配である。



続いて0.5mmの銅板を加工した。最初は焼鈍なしでやってみたが、これも外周が破断してしまった。真鍮ほどひどくはないが…



同じ銅板を焼鈍して加工。加工前と加工途中の2回焼鈍して、アルミ並に綺麗に仕上がった。使えなくはないが、アルミより手間がかかる上に材料代も高く、あまりメリットがない。



以上の加工物を手で強く握ってその変形量から硬さを比較した。0.5mmアルミ<0.5mm銅<0.5mm真鍮<1mmアルミ という結果になった。目標の硬さは0.5mmの真鍮を目安として、最終的に0.8mmのアルミで加工することにした次第である。



曲げた後のフランジの余剰部分は、写真の突っ切りバイトでカットする。ハイス製の金鋸の刃から作ったものである。



加工が終わったら、再び金型にセットし、旋盤で回しながら全体をサンドペーパーで研磨して仮仕上げ。予備2枚を含めて8枚を加工した。今月はトライ&エラーで時間を要したので、ここまで。


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