2000年4月 「主台枠」
動輪鋳物がまだ揃ってないが、とりあえず主台枠の制作を始める。
通常はここから作りはじめることになっているが、ここもまた難関で、
初心者にいきなり主台枠はきついと思うのだが・・・
【材料】
英国機はもともと板台枠が主流であり、ライブでも主台枠は軟鋼板から作る。
軟鋼板には磨き鋼(冷間加工〜bright mild steel)と、黒皮(熱間加工〜black
mild steel)があり、
前者は表面が光っていて精度が高いが、内部応力が大きい。
後者は表面が黒くてごつごつしており、精度が低いが、内部応力が小さい。
台枠材として問題なのは内部応力で、特に軸箱のスロット加工をした場合、
磨き鋼だと、内部応力が解放されて下辺が凸にそってしまう。
これを嫌って、英国では黒皮を使う場合が多いようである。
黒皮で問題なのは、表面が荒いためにケガキがうまくできないことである。
軽くケガいても線が見えないし、強くケガくと線が太くなる。
結局、磨き鋼を使うことにして、内部応力対策として、
まず全体をおおざっぱに整形してから、基準線を引き、
仕上げ加工と穴開けをすることにした。
寸法だけ指定して鋼板を買うと、シャーリングで切断されるので、
断面は汚いうえにエッジがへこんでいるしで、そのままでは使えない。
縦、横とも必要寸法よりやや大きめの板を買って、
周囲を切り取って仕上げ直すのが良い。
WILLIAMの場合、台枠外寸は736×73.6mmなので、
800×80mmの板から切り出すことにした。
【荒切り】
予備を含めて4枚の軟鋼板(3mm厚)を手配し、そりの少ない2枚を選び、
凸面どうしを向き合わせて二枚重ねにし、
四すみの不要部分に固定穴を開けてボルト&ナットで固定する。
おおまかな外形をケガき、約1mmの仕上げしろを残して切断していく。
直線部は帯ノコで、曲線部はドリルで連続穴を開けて切り離す(写真)。
ただし、後の加工を考え、上下幅は80mmのままにしておく。
〜 帯ノコで鋼板を楽に切るためのヒント 〜
■柄は刃の角度を変えられるもので、なるだけしっかりしたものを選ぶ
■刃はハイスブレードを使う
■刃に切削油を塗って使用する
■材料は万力に縦にはさみ、板に対して刃が垂直になるようにする
■材料の振動、変形を防ぐため、切断位置の近くをはさむ
■刃は押して切る方向にセットし、両手でノコの前後をしっかり支える
■右手ひじを脇腹に固定し、上半身を前後に動かして切る(速く動かす必要はない)
■押し出す時に体重をぐっとかける(切削油が加熱して刃先から煙が上がるくらい)
材木を切るような持ち方に比べると、速度は2倍以上、疲労度は半分以下になる。
実際、ここでの荒切りは、休日1日でほとんど終わってしまった。
万力は大きいに越したことはないが、選ぶポイントとして、
作業台の端に固定したときに、アゴ部分が台より外に出るタイプが良い。
さもないと、長い板を縦につかむことができなくなる。
【リベット固定】
荒切りが終わったら、基準線を決めて仕上げ削りをするが、
その前に、切削抵抗で二枚の板がずれないようにするため、
両端のボルト固定に加えて、数本の銅リベットでも固定する。
最後に開ける多数の穴の中から適当な穴を何個か選び、
この段階で穴を開けてしまい、ここに、
板厚の長さに切断した銅リベットを差し込み、
両側をポンチでかしめて固定する。
写真はφ3のリベットを用いて固定した例である。
このように完全に板の中に埋め込んでおけば、
ミリング加工のセットアップの邪魔にならない。
【直線出し】
さて、問題は700mmに及ぶ上下の辺をいかに平行に一直線に仕上げるかである。
参考書によると、なるだけ精度の良い金尺をあてて直線をケガき、
帯ノコとヤスリで仕上げよとあるが、ヤスリで直線(断面)を精度良く仕上げるのは難しい。
エンドミルで仕上げたいのだが、ミニフライス盤も旋盤もステージ移動量が150mmほどしかない。
いろいろ思案したあげく、以下の方法で仕上げることにした。
(1) 旋盤のベッド上に台枠をひっくり返して立て、ハイトゲージで上辺のやや下に水平線をケガく(写真左)
(2) 水平線上に約100mm間隔でポンチを打ち、φ2の穴を開け、φ2の鋼ピンを打ち込む
(3) 再びベッド上に載せ、ピンの直線度を確認する(写真中)
(4) 50×50アングル材を120mm程度に切り、旋盤横送り台に平行に固定する
(5) 主軸にエンドミルを取り付け、アングル材の表面をわずかに正面削りして、完全な平行面を出す
(6) アングル材の手前と奥とに50mmのブロック材を置き、その上に台枠を横置きする
(7) 台枠材のピンの側面をアングル材の削り面に押し当て、横送りとの平行を出す(下図参照)
(8) そのままブロック材の上から台枠材を締め付け固定する
(9) エンドミルの正面フライスで、100mmの距離だけ、断面を仕上げる(写真右)
(10) 刃先は固定したままで台枠材の固定をゆるめ、100mmずらして次のピンで平行を出して再固定する
(11) さっきの続きからさらに100mmの距離だけ、断面を仕上げる
(12) 上記作業をくり返し、台枠の全長にわたって直線を仕上げる
台枠が長すぎて旋盤の後ろの壁につかえるので、机ごと旋盤を手前に引き出して加工を行った。
加工が終わったら、ピン穴部分を帯ノコで切り取り、
今度は仕上げた直線を基準にして、反対側を同様に直線に仕上げる。
できあがったものを再び旋盤のベッド上に置き、直線度を確認したが、
台枠の後端部分に新聞紙1枚(0.05mm)が入る隙間ができていた。
距離からすると1/12000の直線精度であり、これで充分だろう。
上下が決まったので、これに垂直に前断面を仕上げる(フライス盤使用)。
以後の仕上げは、全て上断面と前断面を基準にして行う。
【長手ケガキ】
台枠の全長にわたって穴や切り欠きの位置を正確にケガく必要があるが、
手持ちのハイトゲージは200mmまでのケガキしかできない。
金尺を使って0.1mmの精度でケガくなど、私には無理な話である。
そこで、ハイトゲージをかさ上げするという単純な方法を試みた。
かさ上げに用いたのは、ボイラー胴丸め加工に用いた鋼管である。
これを200mm+αの長さに切断したものを3本用意する。
まず三爪チャックで一端の断面を仕上げる。
仕上げた面を面板に押し付けて固定し、
反対側を削って全長200mmに仕上げる(写真右)。
こうして作った台を必要数だけ重ね合わせ、
その上に厚さの均一な平板を置いてハイトゲージを載せ、
立てて固定した台枠に高さをケガく(写真下)。
それぞれの台は事前にハイトゲージで高さを正確に測っておき、
必要な高さからそれを差し引いた高さにハイトゲージを合わせれば良い。
しかし台を三段も重ねると、
蓄積誤差により0.2mm程度の誤差は出るようである。
台枠を正確に垂直に立てるのも難しい。
金尺でのケガキに比べて、あまり精度は変わらないかもしれない。
そもそも700mmもの材料を±0.1mmの精度で測定するのは
無理という話もある。
【外形仕上げ】
全ての線をケガいたら、まず直線部をエンドミルで仕上げる。
軸箱モリの入るスロットは、φ10のロングエンドミルで底と側面とを同時に仕上げようとしたが、
かなり強引な切削となり、大失敗をやらかしてしまった。
スロットの底でエンドミルが食いつき、そのまま台枠上に乗り上げて、
大音響とともに台枠を引き回してその上を走り、深く食い込んで止まった。
台枠に大きな傷が付いてしまい、思わずトホホと声が漏れる(写真左)。
板の曲がりはないようなので、そのまま使うことにした。
傷付いた側を裏側にして隠すことは言うまでもない。
結局ここはφ3のエンドミルで板に垂直に1面ずつ仕上げる方法に変更した(写真中)。
ポニー車輪を逃げる円弧部は、フライカッターで加工したが、刃先が届かないので、
ツールホルダーごと四爪チャックでつかんで、位置を調整した(写真右)。
【穴開け】
WILLIAMは主台枠でほとんどの部品を位置決めする構造であり、
主台枠には70個近くもの穴を開けないといけない。
ドリルで開ける小穴がほとんどだが、中にはリーマ仕上げのところや、
φ20程度の大穴を開けるところもある。
ケガキ線とスリ傷とを間違えないように、
ケガキの前に青ニススプレーで全体を塗装し、
ポンチを打ったあとにφ1.5くらいのドリルで皿モミしておく。
加減リンクと吊りリンクの軸穴は、特に位置精度に注意する。
小穴は例によってミニフライス盤で開けた。
材料が大きいので、手で保持してドリルの回転力で芯を出すことができない。
材料をステージに固定し、ドリルを回転させて皿モミの穴にチョンチョンと下ろしながら、
刃先がどちらの方向にも逃げないようにステージのX−Yダイヤルを微調整し、
芯が合ったら切削油をたらして穴を貫通させる。
リーマ穴と大径の穴は、旋盤の主軸にドリルチャックや中繰りバイトを付けて広げた(写真上)。
すべての加工が終わったところで、二枚の板を分離させて、端部のバリ取りをする。
片方の板のみに開ける穴を追加で開け、主台枠側板の完成となる。
【レーザ加工について】
最近は英国でも、主台枠のみレーザ加工を外注するケースが増えているようである。
レーザ加工は、種類にもよるが、機械加工よりはグレードが落ちるといわれている。
しかし加工が速いのでコストパフォーマンスは高く、
機械加工よりずっと安い工費で、比較的精度の高い仕上がりが得られる。
私の場合、台枠側板だけで1ヶ月以上かけて、キズモノに終わったわけだが、
レーザだと、全ての加工を間違いなしにあっという間にやってのけてしまう。
同じくWILLIAM製作中の真木さんにレーザ加工屋さんを紹介してもらい、
私も当初はそこに頼むつもりだったのだが、急いでも動輪が来ないと先に進めないので、
じっくり工作を楽しむ(苦しむ?)ために自分で作ることにしたのだった。
(終)