2000年6月 「主台枠組み立て」
【デザイン変更】
WILLIAMの写真を嫁さんに見せると、SLらしくないと言われた。
どうも煙突とドームが低いことが原因らしい。
英国型蒸機はゲージにくらべて車輌限界が低いので、こういう形になってしまう。
日本でいえばC62に匹敵するバランスであり、猛々しいイメージがある。
ためしにCAD上で煙突とドームをいじり、キャブも少し高くすると、好ましい古典的スタイルになる。
WILLIAMはもともとフリーランスなので、好みに合わせてデザイン変更することにした。
ボイラーサイズの制限で5インチをあきらめたので、なるだけ大型化したいということもあり、
英国型の1/16スケールではなく、日本型の1/12スケールでバランスを取った。
デザイン変更前後の図面を示す。上が変更前で、下が変更後である。
1/16と1/12の違いがわかるように、スケール人形も描き込んだ。
全高、全幅を拡げ、煙突は現状のものを根もとから切って、
真鍮丸棒から挽き出したパイプを接続することにした。
蒸気ドームは、同じ4インチボイラーのRAILMOTOR用の鋳物を別途購入することにした。
キャブ屋根のRは、日本の車輌限界に合わせて緩やかにした。
古典機らしくということで、キャブ横の開口はT型、前窓は小判形とした。
サイドタンクは高さ、幅とも拡げ、おかげでタンク容量が6割ほどアップした。
サイドの逆止弁とドームの後ろの砂箱は、ボイラー制作中に決定済みの変更である。
連結器は個人的好みにより、ねじ式ではなく、ナックルカプラー(自連式)にした。
バッファービームは単純な長方形ではなく、近代的な型にした。
前部デッキを少し延長し、ポールを立てることにした。
時代考証が滅茶苦茶だと言われそうだが、
好みのデザインを組み合わせるとこうなるのだから仕方がない。
ということで、外観上は「WILLIAM」ではなくなってしまったが、
自分だけの一台ということで愛着もわくというものである。
工作を続ける。
主台枠側板ができたので、これをつなぐ端梁、横梁を作り、主台枠を組み立てる。
【端梁】
端梁(buffer beam)は主台枠の前後両端につく梁である。
WILLIAMの場合は、アングル材から作る設計になっている。
アングル材はREEVESが提供しているが、これも品切れだったので、
市販の黒皮アングル材から作ることにした。
黒皮アングルは直角から3度くらい平気でずれているし、ねじれもある。
安い材料なので定尺で買って、歪みの少ない部分を選び、矯正して使う。
バーティカルスライダー上にバイスをセットし、
エンドミルの正面フライスで、アングル外面の平面を出すと同時に直角も出す(写真)。
矯正による痩せを考え、必要な厚さ(3.2mm)より厚い材料(4mm)を使用した。
続いて、上面のスロット(台枠側板が入る溝)の加工を行う。
側板の間隔、平行をここで出すので、正確に加工する必要がある。
スロット加工にはメタルソー、スリ割りフライスなどが使われるが、
セットアップがややこしくなるので、φ2のエンドミルで加工した。
セットアップはアングル矯正時と同じである(写真)。
スロット幅は、台枠材の切れっぱしをゲージにして追い込み、
スロット間隔はノギスで出す。
スロット加工が終わったら、ここを基準にして外形加工を行う。
いつものように糸ノコとヤスリで肉削ぎしておき、ミニフライス盤で仕上げた。
【横梁】
台枠の中間部分は、数本の横梁によりハシゴ状に連結される。
WILLIAMの横梁は丸鋼と平鋼のみである。
丸鋼は旋盤で全長を仕上げて両端にタップを立てておく。
平鋼は直角に注意してミニフライス盤で所定の長さに仕上げる。
平鋼は片側4本のネジで台枠側板に固定されるのだが、
ネジ穴は側板から写し開けるので、
とりあえず片側に1カ所だけネジ穴を開けておいた。
【左右側板の位置決め】
台枠で全体の精度が決まるので、位置決めは慎重に行う。
旋盤のベッドを使うのが簡単である。
横梁の丸鋼はそれ自体で芯が出ており、断面も垂直が正確に出ているので、
まずこれを取り付けて、ベッド上で左右の側板の位置決めをする。
平鋼は左右それぞれ4本のネジで台枠に固定されるが、
まず1枚の左右にそれぞれ1カ所だけネジ穴を開け、ネジ2本で台枠に取り付ける。
平鋼の垂直が正確に出ていれば、これで左右側板の前後位置はきれいに揃うことになる。
【端梁の取り付け】
端梁は別のアングル材で側板に固定される(冒頭の図面参照)。
アングル材は端梁と同様に矯正し、端梁に固定するφ3リベット用の穴だけ開けておく。
以下の手順で取り付けを行った。
@組み上がった台枠に端梁を入れて、ブロック等でかさ上げして位置を決める
Aアングルを、端梁と台枠と両方にクランプで仮固定する
Bアングルと端梁の間に瞬間接着剤を流して固定する(写真左)
Cクランプをはずして端梁をアングルごとはずし、アングルの穴を端梁に写し開ける
Dハンマーで軽打してアングル材をはずす(瞬間接着剤は衝撃に弱い)
E瞬間接着剤の残りカスをキサゲ等で取り除く
F端梁の穴の表側に皿モミを入れる
G端梁とアングルを再び組み合わせ、裏から鉄リベットを通す
H表からリベットの先端をつぶし、皿モミの穴に沈める
I表面に出たリベットをヤスリで削り、ツライチに仕上げる(写真中)
J再び台枠に端梁を入れてベッド上で位置決めする
K今度はアングルと台枠側板との間に瞬間接着剤を流す
L台枠のアングル固定用の穴をアングルに写し開ける
Mハンマーで叩いてアングルを端梁ごと台枠からはずし、瞬間接着剤を除去する
N再びベッド上で位置決めし、ボルト&ナットで組み立てる(写真右)
ナットがアングル内側のR部に当たって着座しない場合は、ナットを一部削る
上記のように、瞬間接着剤をクランプがわりに使うと大変便利である。
接着が弱いとドリルの衝撃でもはずれてしまうので、
接着面は事前にシンナー等で油分を除去しておく。
写し開けする時は、適当なクランプでサポートすると安心である。
端梁とアングルの固定は、強度的にはボルト&ナットでも良いのだが、
それだと端梁表面にスケールオーバーのボルトを露出させることになる。
リベットを使うと、ほとんど痕跡を残さずに仕上げることができる。
【横梁の取り付け】
残った平鋼をここで取り付けるが、位置決めのため、
事前に台枠側板の内側に平鋼位置をケガいておく。
左右側板の位置はすでに決まっているので、
先に片側4カ所のネジ穴を写し開けて、片側だけネジで固定し、
そのまま反対側の位置を決めて残りのネジ穴を写し開ける。
台枠のφ3穴から、φ2.5穴(M3下穴)を写し開けるには、
φ3ドリルで皿モミだけ入れて、皿モミで芯を出しつつφ2.5ドリルで掘れば良い。
さて、大物の主台枠ができたのはいいが、工作室内に置き場がないことに気づいた!
居間にはすでにオキモノと化したアスターC56が鎮座しており、進出する余地はない。
情けないが、とりあえず工作室のすみに立てかけておくか。
(終)
来月は都合によりお休みします。8月よりまた再開する予定です。