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2022年11月 「汽笛」


主台枠の内側が走行装置で埋め尽くされているC53では、汽笛を設置する場所がほとんど残されていない。辛うじて設置できるのは、後台枠の内部の、ボイラーと後端梁鋳物の間しかない。縦置きするスペースはなく、横置きとなるので、笛の長さは、後台枠の横幅で制限される。汽笛の音程であるが、日本型では実機のような低音は出せず、実感に乏しくなる。それに対して英国型は、実機でも比較的音程が高く、ライブでも近い音を再現することができる。英国機の汽笛を聴き比べると、LNER A4の三和音の汽笛が、比較的日本型に合いそうである。ド−ファ−ラbという和音になっており、最低音のドを出すためには気柱160mm(開口端補正を無視)の汽笛があれば良い。これに対して後台枠の内幅が180mmなので、歌口の窓およびプラグのための距離も考えるとほぼぎりぎりとなる。横幅めいっぱいを使って最低音の笛を設計し、それと並列に高音用の笛を2本設置することにした。

設計方法はウイリアムの汽笛で細かく書いたので省略する。実際には、なかなか計算通りにいかず、やってみないとわからないというのが正直なところである。使用する真鍮管は、低音用が外径25.4mm、中・高音用が外径18mmで、肉厚はいずれも1mm。



筒側面の窓は、ウイリアムと同じく、楕円形を半分に切った形状にした。真鍮の筒に、仕上げ形状を印刷した台紙を貼り、台紙の上からカッターの刃でトレースして、筒にケガキを入れた。



連続ドリル穴で窓を切り離し、ケガキを頼りにヤスリで仕上げた。




筒の両端を塞ぐプラグ。歌口側のプラグには、内部に蒸気室が形成され、筒の内壁に沿って蒸気を拭き出すためのギャップが切られる。



ギャップは、ロータリーテーブルを用いて、円弧に切る。ギャップの量は汽笛を鳴らしながら最適化が必要である。スタートは0.5mmとして、治具を再利用していつでも追加工できるようにした。



銅管と真鍮丸棒・六角棒を加工し、3本の笛に蒸気を分配するマニホールドを作った。



筒の側面に、蒸気を導入するためのニップルと、固定のためのスタッドを銀ロウ付けする。



汽笛セットを組み上げた状態。3本の汽笛の横位置がバラバラなのは、後台枠内部の後膨張受鋳物を避けるためである。笛の長さとギャップを後々調整できるように、両端のプラグは接合せず、軽い圧入で組み立てている。



汽笛をC53後台枠に組み込んだ状態。右端の鉄板は後台枠鋳物の天井板で、ここで汽笛全体が保持される。横から見ると、後台枠に隠れて全く見えない。



コンプレッサーを接続し、0.3MPaの圧搾空気で吹鳴テストを行った。A4実機より半音ほど音程が低いが、同じ和音になっている。声が裏返り気味だったので、ギャップが少ないと判断し、再調整を行った。最終的には、低音用がギャップ1.0mm、中・高音用が0.8mmとなった。



蒸気での吹鳴を確認するため、ハンスレットに取り付けて運転会に持ち込み、テストをした。ハンスレットの汽笛弁をC53用の汽笛弁と交換し、そこから銅管で接続をして、0.4MPaの蒸気で鳴らした。蒸気は温度が高いので、空気で鳴らすより音程が高くなる。低音笛が2音ほど、中・高音用が1音半ほど高くなった。



エア吹鳴と蒸気吹鳴の比較動画を以下に示す。音程の違いがよくわかる。
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参考までに、LNER A4実機の汽笛が聞ける動画のリンクを貼っておく。

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