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2025年4月 「ブレーキ弁(1)」
動輪は蒸気ブレーキで制動されるが、ブレーキシリンダーまでは作ったものの、ブレーキ弁に未着手であった。どのようなタイプを用いるか検討した結果、Martin
Evansの参考書に掲載されていた圧力可変ブレーキ弁が、興味深い構造であったので、これを応用して設計することにした。蒸気の保温のため、ブレーキ弁はバックヘッドの蒸気箱に直接取り付け、蒸気配管はボイラーとボイラーカバーの間を通してブレーキシリンダーまで導くことにした。ブレーキ弁の断面図を示す。
左側が上から見た断面図である。弁装置は左右2系列配置されており、右が制動弁で左がリリース弁である。蒸気箱からの蒸気は右上から制動弁に入る。制動弁は、スプリングとプランジャーで押された球弁が閉じており、ハンドルを回すとカムの回転でスプリングが緩んで球弁の着座圧力が減り、缶圧より低くなると球弁が開く。蒸気が流れてシリンダー側の圧力が上がると、差圧が減って球弁が閉じる。スプリングを適切に設計することにより、シリンダー圧力を大気圧から缶圧まで自由に調整することができる。一方の、リリース弁の動きだが、ハンドルを9時の位置に戻すと、制動弁が閉じてリリース弁が開き、シリンダー内の蒸気が大気解放される(図は解放状態を示す)。向かって右の図は右側面図だが、リリース弁位置の断面図を示している。図の右側の接続口のうち、上がシリンダーへの接続、下が大気解放ラインである。左側の接続は、ブレーキ圧力計への接続である。

本体は真鍮のブロックから加工する。写真はハンドル回転軸を保持するフォーク部分を加工しているところで、加工による変形を防ぐため、両側をフラットバーで支えている。

フォーク部分のシルエットは、ロータリーテーブルでR加工をして仕上げた。

必要な穴開け加工をする。写真は、リリース弁の弁室にタップを立てているところ。
蒸気箱との接続部分はOリングでシールするが、Oリングを入れるリング状の溝を加工するため、写真のようなバイトを作成した。高炭素鋼を写真のように加工し、焼き入れ、焼き戻しをした。これを用いて、旋盤で正面からリング状の溝入れ加工をする。


接続に必要なニップルを作製し、銀ロウ付して、本体が完成。写真は、蒸気箱接続用のOリングを入れたところ。

ハンドル回転軸を支える円柱部品は、砲金丸棒から作った。フォーク部分にネジ止めするための座繰り加工を行う。

制動弁の穴に入れる、Oリング押さえを作成。本体フォークによりヘッド形状が制限され、長方形のヘッドとなる。固定は四隅を本体にネジ止めとした。
コイルスプリングはいつものように旋盤で巻いて作る。制動弁用は強さの調整のため巻ピッチを変えたものを三種類用意した。ピッチが荒い(巻き数が少ない)ものほど、強いバネになる。


制動弁のスプリングポケットはSUS303丸棒から作製した。カムで押される先端部分は、細かいステップ加工をしてヤスリでアールに仕上げる。

制動弁の全部品。弁座を形成するプラグもOリングでシールされる。ステンレス球弁を押すプランジャーのみ砲金製である。

リリース弁の弁体は特殊な形状をした軸で、SUS303丸棒を、先端から順番に旋削して作った。

リリース弁の全部品。真鍮製のプラグ先端が弁座で、弁軸のテーパー部分が当たって閉となる。細くなっている部分が蒸気通路で、弁が開になると、プラグの横穴を通って大気解放される。

圧力計はボイラーの圧力計と同じタイプだが、最高圧力が0.6MPaで、接続部が下部ではなく背面になっているものを選択した。接続はPT1/8で、袋ナットは専用のテーパータップで作製した。手順はボイラー圧力計と同様である。
ここまでの部品を組み立てた状態。ブレーキ弁としては、あとはハンドルのみだが、ブレーキシリンダーには排水弁と注油弁を付ける予定である。
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