1999年8月 「フランジ加工、他」
***** フランジ加工******
フランジプレートをバーナーで焼きなまし(写真左)、
鉄の型板と木の当板の間にはさんで万力でしっかり固定し、
周囲をプラスチックハンマーでたたいて、フランジ部分を曲げていく(写真右)。
90度に曲がるまで(プレートが型板に完全に密着するまで)焼きなまし&板金をくり返す。
直線部分はわりと簡単に曲がるが、凸部分と凹部分は時間がかかる。
凸部分は、板が圧縮され、凹部分は板が引きのばされるためである。
結局、完全に板金が終わるまで、以下の回数だけ焼鈍&板金をくり返した。
煙室管板 = 6回
内火室管板&後板 = 7回
喉板 = 8回
外火室後板 = 8回
喉板と外火室後板は厚い(3mm)ので、特に焼鈍回数が増えた。
以下の連続写真は、内火室管板のフランジが曲がっていく様子を示したもの。
その下が、フランジ加工の終わったプレート類である。
注意点として、ハンマーでたたいているうちに型板がずれてくる場合がある。
私は最初これに気づかず、喉板の左右フランジ高さが不ぞろいになってしまった。
さいわい、低くなった方のフランジで、ほぼ設計高さくらいになったので、作り直さずに済んだ。
つまり、板金すると、フランジの幅は計算より伸びる。
さらに圧縮される凸部分はフランジが高くなり、引き延ばされる凹部分は低くなる傾向がある。
***** スチームドームブッシュ *****
ここで缶胴に戻り、スチームドームブッシュを付ける。
缶胴に開けるサイズはφ28.8であり、ドリルで開けられる大きさではない。
しかも平板ではなく筒の側面に開けるのだから厄介である。
漏れ防止のためには穴の真円度は0.1mm以下でないといけない。
(1)ケガキ
たとえばコンパスで曲面に円を描くと、円は上から見て楕円になってしまう。
上から見て円にならないといけないので、ケガキのためのゲージを作った。
鋼丸棒をケガキ径(ドームブッシュの外径より1.6mmだけ小さくしておく)まで削り、
中心に縦に穴を開け、さらにその端部を缶胴と同じ半径の曲面に仕上げる
(回転テーブルを用いてエンドミル仕上げ〜写真の横穴はそのための固定穴)。一方、缶胴の所定位置に小穴を開け、作製したゲージをボルトで固定するが、
加工した曲面が缶胴と完全に密着するように向きを合わせる(写真)。
この状態で、ケガキ針を用いて、ゲージの形を缶胴に写し取れば良い。
(2)穴開け
ケガキ線に沿って、
間隔1mmくらいの無数のポンチ穴を打ち、
φ1.6ドリルで穴を開けていく(写真左)。
この段階ではとりあえず、穴は缶胴に垂直でよい。穴が開いたら、糸ノコで穴をつないで、
内側の板を切り取る。
しかし糸ノコの柄が缶胴内に入らないので、
刃を穴に通しての両端をブロックなどで固定し、
缶胴の内と外とでブロックを手で持って、
押し引きして穴を開ける(写真右)。あとは丸ヤスリで穴を真円に仕上げる。
さきほどのゲージの反対側をブッシュと同じ径まで削り、
今度はこれをゲージにして穴を整形する。
穴の断面に青ニスを塗り、ゲージを押し込むと、
ゲージの当たる部分のニスがはげるので、そこを削る。
これを繰り返して、ゲージが貫通するまで穴を削る。
(3)ブッシュ製作
穴を仕上げてからブッシュを削る。
ブッシュは砲金の鋳物(REEVES製)を使用。
根もとを三爪チャックして、まずフランジ部分の正面と外径、
および中心の穴を仕上げる。
ここで中心穴にタイトフィットするヤトイを作り、
ブッシュをひっくりかえしてヤトイにチャックし、反対側を削る(写真)。ここでの最終外径は、缶胴とのはめ合いを見ながら出す。
実際は、さきほどのゲージの直径より0.03mmほど大きくなった。初めて砲金を削ったが、鋼材より柔らかく削りやすいし、仕上がりも綺麗である。
削りだしたフランジ面には傷がつかないように、ガムテープを貼っておく。
(4)ブッシュ傾き調整
ブッシュは、前後左右にφ1.6銅ピンを打ち込んで、缶胴に固定する。
前後の2本は缶胴内側から、左右の2本は缶胴外側からになる。
ブッシュ側面の所定位置にφ1.5の穴を掘り、まず左右のピンを打ち込んで缶胴の穴に入れ、
定盤上でブッシュが水平になるように、缶胴本体のピン下部分を削って調整する。
ブッシュが穴に完全に入り込むまで調整する。
調整が終わったら、缶胴内部から前後のピンを打ち込む。
これでブッシュは缶胴にしっかり固定された。
(5)銀ロウ付け
ブッシュ周辺にフラックスを塗り、本体をひっくり返して、
短く切った銀ロウを、缶胴内部のブッシュ周辺に並べる。
そして下側(缶胴外側)からバーナーであぶり、銀ロウ付けをする。ここでトラブルが発生。
加熱中、パチンと弾けるような音がし、
よく見ると缶胴内側からブッシュを固定していたピンが1本、なくなっている。
あわてて火を止めたが、銀ロウが溶ける前だったので助かった。
どうやらピンが穴の底まで入ってなかったらしく、底に残っていた水分が蒸発して膨張し、
ピンを打ち出したらしい。いったん酸洗浄して、今度は念のため、
ピンに空気抜き用の切り込みを入れてから打ち込み、
フラックスを塗り直して再び銀ロウ付けを開始。
今度は無事に終わり、銀ロウはきれいに表まで回ってくれた(写真)。
それにしても、手前に見えているピンが飛んだから良かったものの、
奥のピンが飛んでいたら、気づかず銀ロウを流してしまうところだった。
まったく、どこに落とし穴があるかわかったものではない。
***** 外火室後板と喉板の加工 *****
フランジプレートの加工のうち、外火室後板と喉板の加工を先にやった。
(1)穴位置のケガキ
フランジプレートはすわりが悪いのでケガキがやりにくい。
横線(高さ)は、プレートを型板に入れ、
型板の底を基準にしてハイトゲージでケガく。
縦線(左右位置)は、回転ステージを用いてケガいた。
写真のように定盤上に回転ステージを立て、
ここにフランジプレートを型板ごと固定し、
ステージを回してスコヤで型板の底を垂直に合わせ、ステージをロックする。
あとは、回転ステージの中心高さ(あらかじめ測っておく)を基準にして、
ハイトゲージでフランジプレートに縦線をケガいていくだけ。
タテヨコをケガいたら、交点にポンチを打っておく。
(2)穴開け
小さな穴はドリルで開けられる。しかし外火室後板の焚き口(φ35.2)とレギュレータの穴(φ22.4)が問題。
このうち焚き口は、木の当板を台にして面板に固定して下穴(φ8)を開け、中グリバイトで仕上げる。続いてレギュレータ穴だが、穴の位置の関係で振りが大きく、面板で振り回せない。
そこで、中グリバイトを四爪チャックして、ボーリングバー代わりに振り回すという反則ワザを使った。
加工する外火室後板は、当板を介して、バーティカルテーブルに固定し、
主軸に入れたセンターの先端で芯を合わせる。
ここで横送りはロックしてしまう。まずドリルで下穴を開け、四爪に持ちかえて、中グリバイトをチャックする。
問題は刃先位置の調整(これで穴の直径が決まる)だが、この調整のために、
あらかじめダイヤルゲージをテーパー送り台に固定しておき、
斜めに突きだして、バイトの先端に接触させ、距離を測る。
ここで測るのは相対距離であり、
ダイヤルゲージをバイト先端に接触させたまま、
四爪を調整して、ゲージの指針をたよりに、
切り込み半径だけバイト先端をずらす(写真)。ここで0.2mmずつ刃先を手前にずらしていくと、
穴の直径は0.4mmずつ大きくなっていく。
穴の内径を測りながら刃先位置をずらしていき、穴を最終の径に追い込む。
直径はあまり正確にはならないが、
最終的なはめ合いは、後で作るブッシュの径で決めるのでOK。
(3)外火室後板の周囲の切削加工
板金しただけだと側面はガタガタなので、エンドミルでキレイに削る。
まず型板を再びベースプレートに固定して、さらに回転テーブルに固定する。
これは型板を作ったときと同じセッティングである。
この状態で、型板にフランジプレートをかぶせて固定し、
フランジの厚さだけ加工半径をシフトさせて削る(写真)。これで、型板の曲面と加工する曲面とは、中心が完全に一致する。
曲面の継ぎ目にわずかでも段差があると、漏れの原因になるので、
段差ができないように注意する。
型板を作る時以上の注意が必要である。直線部分は、これも型板と同様、X−Yテーブルで削る。
(4)喉板の周囲の切削加工
喉板の場合は、缶胴と接合される部分にフランジがあってはいけない。
フランジがあると、角がRになって、缶胴との間に隙間ができるからである(下図左)。そこで喉板は、下から上にいくに従ってフランジが薄くなり、
上端では平板になるように加工する。
というとややこしそうだが、
これは型板と喉板とを上下にずらして加工するだけで良い。右上図は加工後の喉板を裏から見たところである。
赤い線が本来の加工線であり、これを上に10mmずらすことにより、
フランジの厚さを変化させることができる。まず、左右のくびれの部分を削り、
続いて上の円弧の部分を仕上げる。
両肩のエッジ部分は、薄くて変形しやすいので、
真鍮のブロックを、くびれと同じRに削り、
これで後ろから押さえながら
円弧部分を削った(写真)。向かって右側は、エンドミル回転がエッジをのばす方向なので良いが、
左側は、エンドミル回転がエッジを巻き込む方向なので、
エンドミルを回転と逆方向に送りながら、0.1mm単位で慎重に削る。最後に、裾の直線部分を仕上げ、所定の穴(ステイ用)を開ければ、加工終了。
下の写真は、仕上がった外火室後板と喉板とを裏から見たところである。なお、フランジの高さは精度良く仕上げる必要はないが、
底枠と組み合わさる裾の部分だけは、0.1mmの精度で高さをそろえた。